第85話
女性と仕事をするにあたり……ってことだよね。こうして二人で仕事で出かけるようなことがないんだろうな。女性を含めて複数で仕事をするか、男性社員と行動を共にするかとか、いつもはそんな感じなのかもしれない。
顔見知り程度の女性がホテルの部屋に忍び込むような環境じゃぁ、そりゃ、いくら仕事とはいえ女性と二人で行動するのは抵抗あるよね……セクハラに人一倍敏感なのも、そのせいなのかな。
本当……。かっこよすぎるのも大変だなぁ。
「私も、不快な思いさせてしまったらすいません。言わなくてもいいことを言ったり、そう、時々おしゃべりしすぎたりしてしまうので……仕事に関係のない話とか……」
「なんでも聞かせてくださいっ!深山さんの声はずっと聞いていたいんです。不快になるはずなんてない。たとえ僕を罵るような言葉でさえ、聞かせてほしいっ」
「罵る?」
ダメ出し……のことかな。そういえば初対面のあの会議の場で、めいっぱい駄目だししちゃったもんなぁ。それが参考になったみたいなので、遠慮なく意見を言ってほしいってことだよね。
「好きなんです」
「は?」
まるで愛の告白のような言葉に驚いて目を見開く。
「いえ、罵られるのが好きだっていう話じゃなくて、その、深山さんの声、あ、いや、あの……」
「分かりました」
こくんと頷くと、東御社長が今度はびっくりした顔をする。
「忌憚のない声……意見を気に入ってくださったのは分かりました。頑張ります。母親視点でいろいろな意見をできるように!」
ふんっと、こぶしを握りしめ、力こぶを見せるようなポーズをとる。
「よろしくお願いします」
ふっと東御社長が楽しそうにほほ笑んだ。
うぐっ。イケメンの微笑み。幸せそうなその顔にぎゅっと胸がきゅんっと高鳴る。
ああ、気のあるそぶりを見せなくたって、笑顔一つで勘違いしちゃう女性はいそうだ……。
きらりと、光を受けて左手の薬指が光る。
そう、私は勘違いしないけれど。人妻だって社長も知っているし。女性としてカウントされていないから、女性嫌いが発動してないんだよね?
だから、円満に仕事を一緒にすることができるわけで。
シングルマザーだっていうのはばれないようにしないと……。会社に恩返しするんだ。もし、今の会社に救われなかったら路頭に迷ってたかもしれないんだもの!山崎さんがこれから安心して育休が取得できるくらい会社に余裕が生まれるようにするぞ!後藤君の給料が上がって、山崎さんが苦労しないように頑張るよ!って、あれ?二人が結婚すること前提で想像しちゃった。まだどうなるか分からないのにね。
「さっそく行きましょう、いろいろ考えたんですけど、ゼロから始めようかなと」
「ゼロですか?」
東御社長にこくりと頷く。
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