第84話

「いえ、業務上必要な会話だったと思うんです。えっと、そうですよね。うん。浮気だけじゃなくて、そういうのも心配せずに済むフロアがあれば……あれ?でも、男性客からは不評で需要がない?」

 ホテルは客室を埋めないとだめなんだよね。フロアというからにはその階全部そうしちゃうわけで。いつもその階だけ空室が多いんじゃ問題あるし……。

 首をかしげると、東御社長がふっと笑った。

「僕は、男性専用フロアがあれば使いたいですけどね」

 ああ、そういえば女性嫌いなんですよね。……気がついたら部屋に女性が忍び込んでたりする心配もないだろうし……。って、流石にそんな漫画みたいな展開はないか……。

 と、一人で納得していると、東御社長が慌てた。

「いや、別に、浮気を疑うような彼女がいるとかではないですよ?た、ただ、昔、婚約者だと嘘をついて僕の宿泊している部屋に忍び込んだ女性がいて」

「は?」

 漫画みたいな展開があったようです……。

 いや、イケメンすぎるのも大変そう。そりゃ女嫌いにもなるか……。怖いもんね。

「あ、いえ、気のあるそぶりを見せて勘違いさせたとか、その、関係があったとかではなく、本当にその……」

 はい?

 ああ、もしかして、これだけいい男でお金もあるから女性をとっかえひっかえしてると思われたりもしたことがあるってことなのかな?

「東御社長は女性に誠実な人だと私は思っていますよ」

 女嫌いだと聞いたからじゃない。痴漢や浮気の話を聞いて怒ったり、セクハラには敏感だったり。あと、車に女性の匂いも感じなかったし。って、あれ?私、無意識にチェックみたいなことしちゃった?いえ、だって、そうじゃなくて……。

「ありがとうございます。恥ずかしながら、誠実というより、その……女性とどう接していいか分からないというか……いい年して……と思われるかもしれませんが……その……」

 接し方が分からない?まさか、東御社長からリア充爆発しろとかいうオタクみたいな言葉が飛び出してくるなんて思ってみなくて、驚く。

 女性と付き合ったことは……あるよね?女嫌いだといっても、好きな人がいたりはしたんじゃ?

 えっと……。

「何か、深山さんが不快に思うようなことをしてしまったら申し訳ない。先に謝っておきます。何か失礼なことを言ったりしてしまったら、遠慮なく指摘してください」

 東御社長の言葉にハッとする。

 ああそういうことか。女性と付き合ったことがあるとかないとか、そんなプライベートな話をするわけがないよね。

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