第83話

「女性社員から、女性専用フロアをホテルに作ってはどうかという提案が出ていた……。女性専用列車は痴漢が入り込まないようにということで分かるが、ホテルの女性専用フロアは、カプセルホテルではないのに必要あるのだろうかと。女性優遇だの男性差別だのという声が上がり、ホテルのイメージを損なうのではないかと……」

 ああ、そうだよね。女性専用列車にすら、批判的な意見が寄せられるんだもんね。

 それに、ジェンダー問題が年々厳しくなっているから、対応が難しいんだろうな。なんだったかな、コンプライアンスだっけ?難しい言葉があったよね。

 でも……。

「簡単ではないですか?女性専用フロアも作る代わりに、男性専用フロアも作るだけで解決しませんか?」

 あ、簡単って言ってしまったけれど、むしろ体は男性だが心は女性なんだ女性フロアを使わせろっていう人とかが差別だとか言い出すかしら?じゃぁ、ジェンダーフロアみたいな名称も使うといいのかな?どんな方にもお使いいただける……って、単に今まで通りのフロアだけど。……。

「男性専用フロア?需要は見込めるだろうか」

「男性の気持ちはわかりませんが……女性側の意見としては、ホテルで浮気する人もいますよね?夫が出張に行くと言った時に男性専用フロアに宿泊するというだけで安心感が得られる人もいるのでは?」

 私の言葉に東御社長が顔色を変えた。

「まさか、深山さんの旦那さんは浮気を?深山さんのような素敵な女性を悲しませるなんてっ」

 あれ?

 私のことを思って怒ってくれてるの?

 浮気しようにも、真さんこの世にはもういないんだけど……。

「いえ、私のことではないですから。ほら、なんか映画にもありますよね。ホテルで落ち合って浮気するとか、そこに奥さんが乗り込むとか、それで殺人事件が起きたり」

 社長が怒りを鎮め、今度は少し残念そうな顔をした。

「ああ、映画とか。確かに……そうですね、浮気……そう見えるお客様も……。そういわれれば男性専用フロアにしてしまえば、そのフロアにデリバリーされることはなくなりますか……」

「デリバリー?……あっ」

 食事を運んでもらうのかと聞き返す途中で気が付いた。いわゆる性的サービスっていうやつだ。すぐにそれに思い至らず、聞き返そうとしたことに恥ずかしくなって真っ赤になる。

 あわわ、顔が熱い。

「す、すいません、セクハラのような発言をっ。あの、その、わ、わ、忘れていただければ……!」

 私があまりに恥ずかしそうな顔をしてしまったからか、東御社長も焦りまくっている。

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