第82話

 ……ああ、やっぱり、やっぱりやめておけばよかった!明日はもうちょっと落ち着いた色の服を。

 恥ずかしくなってうつむいてしまう。

「いえ、その、イメージがいつもとずいぶん違うので、驚いて……顔つきもその……いつも以上に、似……いえ、いつも以上に」

 ああ、そういうことか。女性は化粧一つでずいぶんとイメージが変わるから、それに驚いたってことね。女嫌いな東御社長であれば、化粧でどれだけ女性の顔が変わるかっていうことにも興味がなかっただろうし。もしくは、妹さん美人だったし、化粧しても印象が変わらないタイプなのかもしれないなぁ。

「普段は、男性が多い職場ですので、武装しているんです」

「武装?」

 東御社長が目を見開いた。

「山崎さんに教えてもらったんですけれど、キツメのガッツリメイクをすると舐められないからって。確かに、教えてもらって化粧をきつくしてきちんとスーツを着て通勤するようになったら痴漢にも合わなくなりましたし、会社でも深山さんと呼ばれるようになりました。それまでは下の名前にちゃん付けで呼ぶ人もいたんですけどね」

 私は笑い話として話をしたつもりだったのに、東御社長の顔が鬼のような形相になった。

「あ、いや、セクハラとかじゃなくて、えーっと」

 そうだった、東御社長はセクハラに対してとても厳しいタイプだった。

「呼び方は、ほら、セクハラじゃないですよね?あの、ちゃん付けとかくんづけとか、子供に対しては普通にするじゃないですか、私、単に子供っぽく扱われていただけで、セクハラでは……」

 ブツブツと東御社長が何かつぶやいている。

「痴漢許さん、痴漢滅びろ、痴漢……」

 あ、怒っているのは痴漢に対してか。うん、確かに痴漢は駄目です。

「女性に不埒な行いをする男どもに天誅を与えよ!」

 あ、天誅なんてアニメのキャラクターが使うような言葉を。

 思わずぷっと笑ってしまった。いや、ごめんなさい。

「あ、いや、その……深山さんが痴漢にあったと聞いて……我を忘れたというか、いや、いつもはこんなんではなく」

「ありがとうございます。身近な人の痴漢被害を聞いて、そこまで怒ってくださる方ばかりならもっと世の中よくなるでしょうね」

「あ、ああ、そうだ。うん……」

 東御社長がちょっと下を向いた。

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