第81話
春っぽいの、春は季節じゃなくて……あの、水色の髪のキャラクターのことか!
「いやいや、優斗、流石にこれはない、ないからっ」
ニットを脱いで優斗の手からスカートを奪う。
「なんで?ああ、行く場所にそぐわない?」
「いや、行く場所は……そう、行く場所に合わせた服を選ぶから。うん、ありがとう。優斗のおかげで決められそうだわ」
東御社長の隣に並んで見劣りしない服装なんて無理に決まってるし、だいたい、見劣りしたからなんだっていうの?
恥をかかせる?少しでも気に入ってもらいたいって思いが私にあったの?やだな。それこそ「女っぽい発想」だ。
おしゃれよりも、実用。子育てママは実用がおしゃれを上回るんだよ。
今回案内するところはそんな人たちが集まる場所。だからスーツはやめようと思ったのに。思ったのに、何を東御社長を意識して服選びなんてしてるんだろう!
「わかった、上だけはこのニットにする。下は、はい、これ!決まり決まり!」
と、ベージュのズボンを手に取って今のスタイルになった。
床に座って赤ちゃんを膝の上にのせて音楽に合わせて動いたり、子供と一緒にトンネルのような場所にくぐって入ったりと……。ママの必須アイテムはズボンです。ミニスカートなんてもってのほか!長いスカートおあちこちひっかけたりして邪魔になるんですっ!
薄桃色のニットは……子供が好きな服を着るのもママの役割なんですっ。いくらロックな母親だって、とげとげのついた抱っこして子供が怪我しそうな服は封印するものです。赤ちゃんへの脳の刺激になりますからカラフルな服を着せましょうという記事を読めば、シックな服が好きなママも、子供には原色バンバン使った服を着せるものです。
と、思い出す。
……勢いで着てきちゃったけれど……。あまりにも東御社長がまじまじと見るものだから。
「あーっと、春らしいかな……と」
薄桃色にしたのは春っぽい物をと選んだだけですと言い訳のようにもごもごと口を動かす。
「はい、すごく春……え?春らしいって、知ってるんですか?深見さん、春のこと」
ん?いや、そりゃ春のこと何もかも知っているわけじゃないけれど……。桃の花や桜の花を連想する薄桃色は春らしい色ですよね?
「東御社長、あの、4月ですし、春でいいですよね?それとも、その、1,2,3月が春で、4月は初夏っていう俳句みたいな季節の区切り方をする方ですか?」
変な聞き方をしてしまった。もしそういう区切りをしても、桜や桃は春の花だ。
「あ、季節、あー、春の季節……っぽい、そうですね、ああ、そうです。いや、あの、少し驚いてしまって……」
驚く?38歳子持ちがピンクの服を着てきたことに?
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