第80話

 想像してずきりと心臓が痛んだ。

 あまりにも私とは違う世界の女性を想像して……。丁寧に髪も肌も手入れできないこの生活に不満があるわけじゃない。

 恥ずかしいとも思わないし、今が不幸だとも思わない。私には天使のようにかわいい息子もいる。仲良くしてくれる友達もいるし、素敵な思い出もある。これからの未来だって……未来……。そうだ、やっぱり建築士の資格取得を目指して勉強しようか。仕事の幅がきっと広がる。受験資格はあるんだもの。それとも、別の資格取得を目指して勉強しようかな。興味が持てるもので……。インテリアコーディネーター?ううん、おしゃれな家に住みたいと思ったことはないからそれはないわね。子育てしてるとオシャレより便利さが必要だって思うし。いや、便利でかつオシャレな家があれば別で……。

 あれ?

 インテリアコーディネーターはうちの会社でも外部委託でお願いすることがある。

 部屋の中をデザインしてもらったり、施主さんとの打ち合わせに同行してもらいアドバイスしてもらったりしているんだけれど……。それはあくまでも部屋の中の話だ。

 設計は、施主さんの希望を聞きながら営業が設計部署に回す。大きさや間取りなど過去の物件を参考に設計担当者が設計の大枠を決め、建築士がチェックを入れていく。予算内でできる範囲は限られてくるし、構造計算、北側斜線制限、容積率、そのほかいろいろと設計上守らなければいけない部分もある。だからこそ勉強して国家資格を取った者の仕事なのだ。

 庭でバーベキューをしたいから、雨が降っても大丈夫なように、軒を長くしたいと言った希望を施主さんが出したからといって、技術的にはかなえられたとしてもいろいろな問題が起きる。軒の出は1mまでは計算に入れないけれどそれよりも大きくなると。

「これ、この服がいいと思うよ!」

 優斗の声で現実に引き戻される。

 優斗が手に持っていたのは、白に近い薄桃色の春物ニットだ。

「え?ピンクは……さすがに……」

 38歳だよ、私?その服は30歳前後の時に安かったから買ったけれど、そのころはまだ着ることもあったけれど、もう4,5年着てないんじゃないかな。

「なんで?母さんに似合うと思うけど?っていうか、仕事で、どこまわるの?ラフすぎる?」

 ううんと首を横に振る。

「分かった。ちょっと着てみて変じゃないならこれにする」

 ざっくりニットを部屋着の上からひっかぶる。

「どう?変じゃない?」

「春みたいで、いいよ」

 春っぽい色ではあるし、今は春だけど。

「んじゃ、下はこれ、このスカートがいいんじゃない?」

 白いふわりと広がるロングスカートを嬉しそうに優斗が手に取った。

「これ合わせたらさらに春っぽい!」

 ん?

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