第79話
「おはようございます」
月曜日に待ち合わせしたのは、会社の最寄りの駅前だ。
「似てる……」
東御社長が何かをつぶやきじっと私の姿を見た。
な、何かおかしかったかな?
今日の服装は、いつもの出社のがっちりスーツ戦闘服スタイルではない。
あまり流行に左右されないデザインの緩い春ニットに、ベージュの幅広パンツだ。
小さな子供たちを連れていくような場所にスーツ姿はないなぁと思ってのことだ。
何を着ていこうかなと、実はかなり悩んだ。スーツはそういう悩まなくてもいいから実は楽。
何着かのスーツをローテーションして着ている。同じスーツを毎日着るよりも休ませる日を作りながら着た方が長持ちするよと聞いたからだ。……まぁ、1日着ているわけではなく、通勤時間しか着てないからそれほど早くは痛まないけれど。おかげでスーツは何年着てたかなぁ?って、今日の服だって、何年前に買ったかなんて覚えていない。
東御社長のように素敵な男性と並んで歩く……仕事とはいえ……恥をかかせない服にしなくちゃって。
そんなこと考えだしたら、本当に何を着ていいのか分からなくなって……。
クローゼットの服を引っ張り出して、ああでもないこうでもないとしてたら、優斗がその様子を見て声をかけてきた。
「母さん、デートにでも行くの?」
デ、デ、デート?!東御社長と私が、デート?
「ち、違うわよっ」
と、否定しつつ、たくさん服を引っ張り出して、ああでもないこうでもないと何を着ていこうかと悩んでるのは初デート前の女子高生みたいではあるよね……。
好きになってもらいたいって。少しでもかわいく見えるようにって。
「明日から出向だって言ったでしょ?制服じゃなくて私服で外回りをするから……」
「どこへ行くの?」
優斗の言葉にハッとする。
そうだ。誰と行くかじゃない。どこへ行くか……だ。
全然そんなこと頭になかった。東御社長と並んで恥をかかせないようにって。……あれ?東御社長に私は気に入られたいなと思ってた?並んでみっともなくなりたくないなんて……どう考えたって、東御社長のようにどこにでもいるような男性ではなく、飛び切り素敵な男性の隣に立つなんて……私のような38歳のおばさんがどれだけおしゃれしたって不釣り合いになるだけなのに。
東御社長と並んで似合うのは、きっと30歳前後のすらりと背が高くて細くてモデルのような体形で丁寧に手入れされたつやつやの髪をふんわりと巻いて、とても30歳には見えない若々しい肌に誰もが振り返るような美人で……。
想像してずきりと心臓が痛んだ。
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