第73話

 うーん。リアルな38歳ってどんなデートするんだろう?なんか世間ずれしすぎてる?ちょっと山崎さんに教えてもらおうかな。キャラクターの年齢設定35歳だったよね。あんまり一般的なこととずれた答えすぎるのも……。って、山崎さんとは出向だからしばらく会えないんだ。

 いや、飲みに行こうっていう約束があった。日程はまだ決めてないけれど……。後藤君と山崎さんを二人きりにする作戦。ついでにその時に理想のデートとか聞こう。そうしよう。うん。後藤君も参考になるはず!一石二鳥ね!

「えっと、次の質問で最後です。対象者は全員、好きな二けたの数字をコメントしてください。ここに用意した二けたの数字と同じ数字を書いた人が質問者です。えーっと、同じ数字がなかった場合は一番近い数字を書いた人になります」

 台本通りの言葉を読む。次々にコメントで二けたの数字が上がっていく。

 質問は言ったことがある外国はどこですかだった。ない。

「皆さんありがとうございました。あの、では、えーっと、お、お兄ちゃんがSNSを確認してくれました。コロッケのアンケート結果が出たそうです。1位は」

 発表のあと、録音してあった音楽をかける。

 その間に私は1位と2位のコロッケを1つずつ揚げる。いや、たった2個だけっていうのもせっかく油を温めたのだから。明日食べる分も揚げてしまおう。

 本当は揚げたてが一番おいしいんだけれども。コロッケ2個だけの揚げ物は、ちょっとなんていうか……ね?

 歌は、私が高校生の頃に流行っていた曲だ。20年くらい前の歌。

 コロッケを持って戻ると、優斗がなにやら必死にメモしていた。

「同世代、こっちは若いな、同世代か、上、若い、若い、んー、分からない」

 ぶつぶつとコメントを見ながらつぶやいている。

「なつかしい!」

「相変わらず歌がうまいなぁ」

「いいね!なんか若返るよっ。あの頃思い出す」

「安心感あるわぁ。さすがな選曲」

「え?これ聞いたことあるような気がするけどなんだっけ」

 コメントを覗き込むと、20年前の曲に対する反応は様々だけれど……。

「案外、同じくらいの年の人も見てくれてるんだねぇ」

 優斗がメモをしていたノートを慌てて閉じて、焦った声を出す。

「か、母さんっ、な、何?」

 ん?何をそんなに焦っているんだろうか?

「何って、こういうのって、もっと若い子ばかりが見ていると思ったから。コメント見ると、同じくらいの年の人もいっぱい見てくれているんだなぁって」

「あー、うん、そうだよ。というか、キャラクターの設定35歳だし、歌ってみたも、懐かしい曲多めだから、むしろ、そういう年齢の人たちに突き刺さって人気が出てきたんだ」

 そういえば。優斗、言ってたよね。個性を出さないとVtuberも増えてるから埋もれちゃうって。35歳っていう設定は成功したってことだよね。……うーん、これって、中身が本当に35歳に近い38歳の私だってことが分かっても聞いてる人はがっかりしないってことかな?

 かわいい女の子じゃなくて、声はおじさんだってこともあるみたいだから大丈夫なんだよね……。

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