第72話

「ありがとうございます。初恋ですか?幼稚園の年中さんのころかな?だから、えっと5歳だと思います。えーっと、次の質問者を指名します。二人目は女性限定です。」

 同じように何人かが挙手し、同じように指名する。

「こんばんは!質問は、料理にはいつもどれくらいの時間をかけていますか?」

「今日のコロッケづくりは3時間くらいかかりました。合計で40個作って、他にも夕飯のおかず作りなど同時進行していたので。平日は1時間もかけません。お弁当なら10分くらい。夕飯で30分前後で、1時間は手が込んでいる方です。あ、煮込む時間が必要な料理はまた別です。あ、3人目は、同世代の独身男性。えーっと、同世代というのは、何歳かって、アラフォー?かな?」

 優斗がにやりと笑った。

「へー、意外。この人もアラフォー独身男性だったのかぁ」

 なんかコメントを見ながら優斗がニヤニヤしている。

「では、くじを引きます、13番目の、えーっと……ヒガドンさん……あ、ごめんなさい数え間違えました。13番目だとショショさん」

 ヒガドンさんの名前は憶えていたからつい目がひきつけられてしまった。そうか。独身で同世代なのか。

「デートで行きたい場所はどこですか?」

 デート?

「そうですね……」

 真さんとのデートの思い出と言えば……同じ大学に通っていたというのもあり大学帰りにご飯を食べに行ったり、公園で焼き芋を一緒に食べたり、映画を見ながらポップコーンを食べたり……。あれ?食べ物関連ばかり思い出す。楽しかった思い出が、一緒においしい物を食べた記憶と結びついているのかな。

「食べ歩きとか……かな。おいしい物を色々一緒に食べられたら楽しそう。高級レストランで食事するよりも、寒い日に温かいたい焼きをベンチに座りながら食べるとか……。ああでも寒すぎるのは無理です」

 寒い中、買ったたい焼きを割ると湯気を上げる。熱い熱いと言いながら焼き立てのたい焼きを食べたらきっとおいしいだろうな。

 ああ、そうだ。優斗と……子供と一緒だと、どうしても出かけたも違ってくるよね……。寒かったら、温かいところへ行かないとってまず思っちゃう。

 そうか……私、そういうことなんだ……。デート……。もし、真さんが生きていたら、優斗も大きくなったから二人で出かけることもあったのかな……。

 いろいろと失ってしまったことに気が付いてしまった。

 きっと、一人で食べるたい焼きの味と、違う味があったんだろうな……。

「うおー、たい焼き買ってくる!」

「おおお、焼き鳥食べながら日本酒飲むとか大人のデートを期待した俺の心は汚れているっ」

 焼き鳥食べながら日本酒か。ふふ、本当だ。35歳の答えとしては、ちょっと高校生みたいだったかな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る