第56話

「そ、そうだ!今度みんなで飲みにいかない?」

 協力ということで思い浮かんだのは、二人で会って話をさせることだ。

「え~どうしたの?深山が飲みに誘うなんて珍しい」

 ヤバイ。怪しすぎたかな。

「あ、ほら、出向して山崎さんに会えなくなるから寂しくなるし……。1週間か2週間後くらいにでもどうかな……って」

 山崎さんが私の手を取ってぎゅっと握った。

「うん、そうだね。私もきっとそれくらい後だと深山今ごろどうしてるかなってきっと心配になってると思うし。いいと思う!飲みに行こう!って、でも後藤はいらなくない?」

 えーっ!

「あ、いや、多分私、あまりゆっくりできないだろうから……その、せっかくだからゆっくり飲めた方が山崎さんも……」

「ああ、優斗君を遅くまで一人にできないよね。いいよいいよ、別にゆっくりできなくっても」

「そんなの悪いから、山崎さんゆっくりの飲むの好きだって言ってたでしょう?後藤君も付き合ってくれるなら、私だけ先に帰らせてもらったあと二人でゆっくりおいしいお酒飲んでくれるなら……私も誘いやすいっていうか……」

 そのあとはお二人でどうぞ。ふ、ふ、ふっていう、計画です。単純だよね。ああ。もう、協力って他にできないのかな。

「あー、深山って、子供がいるからって自分の都合に周りを合わせてもらうの苦手だったよねぇ……」

 山崎さんの言葉にあいまいに笑う。

 そりゃぁ……。ね。

 一緒にご飯食べに行って、保育園から子供が熱を出したのでお迎えに来てくださいとか連絡がきたら……。

 食べるのやめて帰るけれど、一緒に来た友達に迷惑かけちゃうよね。大丈夫?って心配かけちゃうのもそうだけど、一人で食事を続けて帰るのってどうなんだろうって。せっかく時間を作って出てきてくれたのに、いつもよりも少しおいしい物を食べているのに。時間もお金も台無しにしちゃう。……って、そう思うとそう簡単に一緒に遊びに行くこともできなかった。

 私は若い時に子供を産んだから。友達にママはいなかったから、こちらが迷惑をかけるばかりって思っていて……。

 真さんが亡くなってからは、もうそんな時間なんて取れなくて。誰かに誘われても優斗との時間を少しでも長くとりたくて断ってばかりだった。

 ああそうだ。東御社長にホテルから近い評判の良い小児科などの情報もお客さんに提供できるようにしておいてもらえるのはどうかなぁ。安心感あるよね。子供の体調は急に変わるし。

「うん、分かった。後藤、暇?なら、一緒に飲みに行ってくれない?」

 山崎さんが後藤君に声をかけた。

「は、はい!山崎さんと飲みに行けるなんて、光栄です」

 びしっと背筋を伸ばした後藤君。

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