第55話
「おはよう!深山!」
朝、席に座ると山崎さんが肩をポンっと叩いてきた。いつもより強めだ。
「山崎さん、おはよう」
私の顔をまじまじと見ながら、山崎さんが隣に椅子を引いて座った。
「あー、もう深山とも会えなくなると思うと寂しいなぁ……」
「えええ?山崎さん、私、しばらく出向するだけで、戻ってきますよっ!そんな、やめちゃう人に対する言葉みたいな……って、まさか、山崎さんがやめちゃうなんてことはないですよね?わ、私が出向している間にやめたりしないでくださいね?」
私の言葉を聞いて、後藤君が焦った顔で会話に割り込んできた。
「え?山崎さん会社辞めちゃうんですかっ!」
山崎さんがぷぅっと少しすねたような表情を見せていない後藤君を見た。
「二人とも私に会社辞めさそうとしてるの?私は、辞めないわよ?結婚しても、子供産んでも、定年まで、いや、定年後も辞めないわっ!」
後藤君が慌てた表情を見せる。
「え?山崎さん、結婚するんですか?」
あーあ。地雷を踏んだ。それは駄目なやつだよ。いくら気になるからって!そういう話は私に聞こうね?
あ、だめだ。私はしばらく会社にはいないんだ。
言わんこっちゃない。山崎さんの目が座った。
「後藤……私に現在彼氏もいないことを知っていたはずじゃない?結婚?できるもんなら今すぐにだってしたいわよっ!でも、相手が!相手がっ!」
後藤君が明らかにほっとした顔をする。
もう、分かりやすいよ。後藤君、山崎さんのこと大好きだよね!
わかりやすいのに、山崎さんに伝わってないよ!頑張れ!
あ、違う。心の中だけの応援じゃダメだよね。うん、ダメダメ。
「ご、後藤君は結婚したいとか思わないの?」
ほら、ここで山崎さんと結婚したいですとか、言っちゃって!
「え、ぼ、僕も、お付き合いしている人もいませんし……」
そうだ、だから、付き合いましょうっていうの!
あ、まって、流石に会社の始業直前にそんな話するわけないか。
「で、でも、僕は、付き合えたらすぐにでも結婚したいと思ってますっ!」
言った。いや違う、山崎さんと付き合えたらって、大事な名前が抜けてる。
「へぇー。後藤はそういうタイプなんだ。私もそういう人と出会えるといいなぁ。何年も付き合ってから結婚なんて余裕はもうないよ」
はぁーと山崎さんがため息をついた。
って、やっぱり伝わってないですよ。後藤君がしゅんっとうなだれてる。そりゃ、伝わらないって。でも、そういう人と出会えるといいなぁってことは、感触は悪くないんですよ?ね?もうちょっと頑張って!
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