第48話

「ああ、懐かしい、ここ、優斗を連れてったわ」

 懐かしい場所の写真を見て、小さかった優斗のことを思い出す。

 真くんがこのころは生きていたなぁ……。

「あ、新しい場所ができたのね」

 楽しそう。優斗が小さかったら、絶対連れて行ったのに。

 ……ちょっと行ってみたいなぁ。行ってしまおうか?

 いや、私は案内役なんだから、知っている施設に行った方がいいよね。

「あっ!やばい!時間っ!」

 うっかり思い出に浸ったり、新しい施設が気になったりしている間に、あっという間に時間が過ぎてしまった。


「ただいまー。ごめんね、買い物寄ったら遅くなっちゃった」

 玄関のドアを開けると、優斗が玄関まで来た。

「おかえりなさい」

 私が玄関に置いた2つのビニール袋を優斗がすぐに持ち上げると台所に運んでくれる。

 くっ。なんていい子なのかしら。天使よ、私の子供は天使なの!

 誰か、聞いて!ねぇ、聞いて!と、心の中で叫ぶ。台所からは冷蔵庫をバタんと開け閉めする音も聞こえてくる。買い物したものを片付けてくれてる?

 え?うそ?

 そこまでしてくれるの?いったい、どうしちゃったの?

「母さん、ご飯食べたらまた録音させて~、早く早く!」

 と、声が聞こえてきた。

 あ、そうですか。そのために……。私のためというよりは、自分のためなんですね。でも大丈夫。

 自分のことすら自分でやれない残念な男の人に成長するよりは自分のことはきっちり自分でできる大人になってほしいんです。

 ……東御社長、ゴミをちゃんと片づけようとしてたよね。それに、よく見たら私のプリンの容器を自分の食べたプリンの容器に重ねてあった。

 ……私のごみも一緒に捨ててくれようとしていたんだよね。

 東御社長も天使!

 と、東御社長の顔が思い浮かんで赤面する。いやいや、年上の男性にむかって、何を言っているのか。

 想像の中の東御社長がにこりととろける笑顔を見せた。いや、もう、ごめんなさい。天使というより、悪魔の微笑みに見える。なんていうの?魅了魔法とか使って人間を虜にしてダメにするやつ!

 先に風呂に入り、着替えて台所に戻る。作り置いた夕飯を冷蔵庫から取り出す。

「よく見てるなぁ」

 冷蔵庫の中には、きちんと買ってきたものが入れられていた。

 一番上の段、二段目の段と、置いてあるものが分けてあるんだけど、ちゃんとその通りに入ってる。

 そりゃそうか。小さいころから、冷蔵庫に入っているから食べてねを何度繰り返したか。

 普通の子供よりもきっと冷蔵庫の中を見る機会も多くて、どこにあるんだろうって探したことも多かったんだろう。

「どこに入ってるの?」と聞くこともできなかっただろうから……。覚えるしかなかったんだね。

「うん、よし!私が優斗にしてあげられることなんて、本当に少ししかないんだ。優斗が今、私にしてほしいことがVTuberのキャラクターの声だというなら、めいっぱい頑張って、やってあげよう!」

 何度も何度も、優斗に寂しい思いをさせていたんじゃないだろうか、いろいろ我慢させて辛い思いをさせてきたんじゃないかと……申し訳ない気持ちがあふれてくる。

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