第47話

 びっくりして言葉に詰まると、東御社長が慌てて首を振った。

「いや、何でもない。聞かなかったことにしてくれる?じゃぁ、月曜日に」

 とても焦った様子で、急いで立ち去って行った。

 山崎さんと後藤君の関係が気になるなんて……。

 まさか、東御社長は山崎さんのこと……。

 え?嘘!私、どうしたらいいの?

 山崎さんは東御社長みたいなのはタイプじゃないって言ってるの聞いてるし。個人的には後藤君のこと応援したいし。

 女嫌いなのに、気になる女性ができるなんてすごく珍しいことじゃないの?親に結婚しろと言われてちょっと考え始めたタイミングでもし、山崎さんのこと意識しているのだとしたら……。東御社長の人生において、何度もあるようなことじゃないだろうし。

 ああ、かといって、応援は……難しいんです……。

 ふっと気が重たくなった。山崎さんのこと尋ねられると辛いなぁ……と。

 東御社長が見えなくなってから、踵を返す。

「山崎さん、会議室片づけてから戻るね」

「今までランチミーティングっていう名の仕事でしょ?あと30分くらいゆっくりしておいでよ」

 え?

「ねぇ、後藤もそう思うでしょ?東御社長の接待っていうの?してたんだもん。仕事よ、仕事」

「そうですね、部長に何か言われたら僕が説明しますよ」

「うん、後藤、分かってるね!」

 二人が意気投合している。

 これは、素直に頷いておこう。

「じゃぁ、お願いしてもい?会議室片づけてくるね!」

 と、二人に手を振って会議室に向かう。……ちらりと振り向けば、二人が親し気に話ながら事務室に向かっているのが目に入った。

 会議室に戻り、お弁当箱をかたずける。それからプリンの容器。

 社長の食べた分も。

「あ……」

 米粒を残さず綺麗に食べる人なんだ。

 東御社長の新しい面を発見して、ちょっと楽しくなる。

「あれ?なんで、私は楽しい気持ちになっているんだろう?」

 ゴミ箱にゴミを捨て終わり、カップを片付ける。

「どうしようか」

 もう少し休憩とっていいよとは言われたけれど。

 残業するよりも休憩時間返上で仕事をした方が早く帰れる。でも、せっかくの山崎さんの気遣い……。

 ああ、そうだ。

 1つやることが増えたんだ。

 来週、東御社長と足を運ぶ場所を考えないと。

 スマホを取り出す。

 優斗の音楽を聴きながら「子供 遊び」と検索。

 まずは近い場所から足を運んだ方がいいだろうと、地名を入力。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る