第46話

 まぁ、オタクじゃなくてもファッションに無頓着な人間はたくさんいますよね。私だって、仕事以外の時は、夏なら涼しい、冬なら温かい服が好き。優斗が小さいときはとにかくスカートなんてもってのほかだったし。子育てセンターみたいなところでは座って子供と触れ合い遊びみたいなものが当たり前にあったからね。床に座って足を広げたり、ズボンじゃないと不便だったんだ。そうか。靴や服装も、小さな子供を連れていれば当然旅行とはいえ制限されるよね。夜は浴衣が用意されるのだろうか。できればズボンと上着と別れているもので、女性は授乳のことも考えれば胸元が出しやすいものがいい。この辺もあとで伝えてみよう。

「私もスーツは着ていかないつもりですが……。ああそういえば、出向中はどのような服装で出勤しましょう?事務服に着替えた方がいいですか?それとも何か決まりや制服があれば合わせますので」

「いえ、特に決まりはありません。自由な服装で構いませんが……その、逆に制服があったほうが働きやすいというのであれば何か用意させます」

「それは助かります」

 正直に答える。

 通勤はできる女風にスーツだ。スーツを1日来て仕事をするのは肩がこる。それに、椅子にほとんど座っているので、あちこち皺になる。そんなに数も持っていないので、着回しも大変になってくる。クリーニング代も馬鹿にならない。ええ、ええ。庶民にとってクリーニング代は馬鹿にならない出費なんです。クリーニング代を出すくらいなら、子供の服を1枚買ってあげたいんです。

 通勤時だけの着用なら、1日1~2時間なので、それほど汚れないし、へたらないし、数がなくて着回ししてることもばれにくい。すいません。張りぼての、できる女なんてしょせんこんなもんです。意識低いんです、私。靴の汚れは仕事への意識の低さだとか、服の皺の数が逃したチャンスの数だとか、疲れるだろうなぁと、思ってます。家事と育児と仕事でいっぱいいっぱいです。そんな細かいことを気にして時間を使うよりは、子供に絵本を1冊でも多く読んであげたかったんです。料理にひと手間かけてあげたかったんです。

「僕が用意した制服を深山さんが……んー、どんな制服がいいだろう」

「いえ、あの、特別に用意していただかなくても、他の方と同じもので……」

 という私の言葉の途中で東御社長のスマホが鳴った。

「ああ、失礼しました。時間のようです」

 食べながら会話を続けていたので、私も東御社長もすでに食べ終わっている。慌てて残っていたコーヒーを飲み干して、東御社長が席を立った。

「えーっと、これはどちらに」

 食べ終わって出たゴミを手にしている。

 ああ、社長でも人にやらせずにそのままにすることを当たり前にしないんだ。

「ああ、大丈夫ですよ。こちらで処分するので。プリンご馳走さまでした」

「いえ。こちらこそ、突然、お昼時間にお邪魔して時間をいただいてありがとうございました」

 片づけはあとにして、私も席を立って、出口まで付き合う。

「それでは月曜日に」

 ふっと東御社長の視線がそれて、すっと小さく手を挙げた。

 つられるように振り返ると、山崎さんの姿がある。隣には後藤君。

 山崎さんが小さく頭を下げた。

「あの二人は、その、どういう関係?えーっと、趣味が合うとか?」

 え?

 あの二人というのは、山崎さんと後藤君のことだよね?

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