第43話
「ううん、私一人。そのせいで、山崎さんが一人で食事することになっちゃったから、よければ後藤君一緒に食べてあげてくれる?ああ、それから、スマホのステッカーは私があげたんだけど、私も山崎さんも実はあんまり詳しくないから、教えてあげてくれる?誰かに聞かれたときにこたえられる程度には。後藤君は詳しいんでしょ?」
後藤君がはっとして視線をそらした。
「いえ、その……」
「私の息子は詳しいんだけどね。あのステッカーも息子からもらったの」
わかりにくいグッズでオタク主張をしている人は、オタクを隠したいという思いもある人もいるだろう。
「山崎さんも偏見はないから大丈夫。結構かっこよくて気に入ってるみたいだから、あの形の由来とか何かプチ情報知ったら喜ぶと思う」
頑張ってっていう意味を込めて、ポンポンと、後藤君の肩をたたいた。
叩いて気が付いたけど、ああ、これ部長と同じじゃん?すっかりこの会社の風土に染まってると自分の無意識の行動にびっくりした。
それとも、おばさん化してきたのかな?
顔を上げると、コンビニの袋を下げた東御社長と目があった。コンビニでお昼を買ってきたんだ。
あんな立派な車に乗っていて、社長という地位もあって、俳優のようにかっこよくて、でも、コンビニ使うんだということに妙に親近感がわいた。まぁ、コンビニを使うのなんて今では当たり前なのかもしれないけれど。
「今の男性は?」
東御社長と会議室に移動しようと近づくと、開口一番言われた言葉。声のあまりに冷たさに背筋が凍り付いた。
「親し気に、肩をたたいていましたが」
あっと、小さく息をのむ。
「そ、そうなんですよ、あの、部長が私の肩を叩いていたのを見てセクハラじゃないかって言っていましたよね?うちの会社では男女関係なくその、ジェンダーのその……肩を叩くのは日常的でセクハラだというんではなくて……でも、そうですよね、えっと、女性が男性の肩を叩くのだって、セクハラなんですよね……。気を付けます。すいません」
素直に頭を下げる。
それで、こんなに冷たい声なんだ。
セクハラに厳しい感じだものね。
あ、それとも、男になれなれしく触るような女は信用置けないと、私に対して女嫌いが発動したのかな。
「あなたが触れられるのも気に入りませんが、あなたが男性に触れるのはもっと嫌な気がしますね」
うわー。怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。
男性になれなれしく触れる女性……なんかセクハラまがいにいろいろ触られた経験が社長にあって、それを思い出させちゃったのかも。
「本当に、気を付けないといけませんね。息子のような感じがして気安くなりすぎちゃうんですよね」
同じオタクだと思うと。つい。
「息子……?男性ではなくて、息子のように見ていると?」
「あ、大丈夫です。東御社長には触れたりしませんから」
東御社長がポロリとつぶやきを漏らす。
「僕には、触れない……?」
はい。決して、女嫌いを加速させるようなことはないと誓います。
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