第42話

 打ち合わせ……せっかく買ったコーヒーが冷めちゃうなぁ。

 と、迷惑そうな顔を見せたつもりはないのだけれど、東御社長は何か感じ取ったのか、慌てて言葉をつづけた。

「いや、そんなに時間はとらせません、あ、ランチミーティングということで、一緒に食事をしながらでも……もちろんご馳走します」

 一緒に食事?

 ご馳走するって。とても仕事でランチミーティングするときに出てくる言葉じゃなくてびっくりする。

 東御社長って、本当に仕事ができるオーラバリバリなので、意外すぎて。

 女性嫌いだから、女性とのランチミーティングなんて想定外で、内心困っているのかもしれない。

「あの、私お弁当なので……」

 と言って、思い直す。

 お弁当食べた後にしてくれます?じゃ忙しいだろう東御社長に迷惑だ。

 ランチミーティングを提案したということは東御社長も昼ご飯はまだということで、打ち合わせをした後に食べるので大丈夫ですというと、今度は東御社長もお腹を空かせちゃうことになるだろう。

 どうしたらいいのか。

「ではご迷惑ではなければ、近くで何か買ってきますので、ご一緒しても?」

 は?

「ええ。もちろん」

 と、答えるしかないよね。

「じゃぁ、あまり周りが騒がしいのもあれでしょう。会議室にどうぞ」

 部長の言葉に、東御社長がいったんお昼を買いに会社を出る。ちょうど、買い物を終えた山崎さんが戻ってきた。

 東御社長が、山崎さんに何か話しかけ、山崎さんが笑って返事を返している。

「深山、東御社長とランチミーティングするんだって?」

「あ、うん」

「それにしても、深山は東御社長にずいぶん気に入られたみたいだね。私が深山と仲がいいっていうだけで、他の女性社員に向けるような目向けられずに済んでるんだもん」

 山崎さんの言葉に、そうなのかなと首をかしげる。

「山崎さんが、東御社長に気に入られたんじゃないかな?」

 山崎さんがいやそうな顔をする。

「イケメン嫌いオーラ出てたかな。嫌われると話しかけやすいっていうなら、相当なマゾだよ。もはや女嫌いとは別の次元の話になってくるよ」

「あ、会議室でランチミーティングになっちゃったから、今日は一緒に食べれないみたい」

「ああ、うんいいよー」

 並んで食堂に入り、お弁当を置いたテーブルに戻る。

「これ、まだ口付けてないから、よければ飲んで」

 カップのコーヒーを山崎さんに差し出す。

「え?いいの?」

「うん。来客用のお茶とか出した方がいいかなぁって思うと、私だけこれ持ってくのもね……」

「なるほど、頑張って」

 山崎さんに小さく頷いて見せてから食堂を出る。

「あ、後藤君」

 ちょうどコンビニの袋を手にした後藤君の姿が目に入り声をかける。

「深山さん、もうお昼終わったんですか?」

「ううん、これから。ちょっと急にランチミーティングで会議室に行くことになって移動中」

「へぇ、そうなんですか?山崎さんも?」

 ほらね。山崎さんのこと気にしてる。後藤君は山崎さんに気があると思うんだよね。余計なおせっかいしていいかな。

 ちょっと年下だけれど、気にするほどの年齢差でもないよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る