第41話
昼休みになった。
「深山、今日もお弁当?」
息子のお弁当を毎日作るついでに、自分の分も作っている。節約にもなるので。
「コンビニ行ってくるね、先に食べてて」
山崎さんがスマホを片手に立ち上がった。近くのコンビニはスマホ決済ができるのでいつも財布を持っては行かないんだよね。
うちの会社には食堂はある。といっても、テーブルとイスと飲み物の自動販売機が2台ならんでいるだけの場所だ。
ああ、あとポットと電子レンジも置かれている。冷蔵庫はない。
食堂で席を取り、ポケットに入れてあった小銭で紙コップで出てくるコーヒーを買ってから着席。
お弁当を広げようとしたところで、部長が食堂に入ってきた。
「深山くん、ちょっと」
手招きされる。
何だろう?ちょっと慌てた様子だ。お昼休みなんですけど、あとでは駄目ですかと言えるような雰囲気ではない。
「なんでしょうか」
お弁当をテーブルの上に置いたまま席を立ち、入り口近くで手招きしている部長に近づく。
「今、駐車場にあの車が入ってくのが見えたから」
「あの車?」
「うちには似つかわしくない黒塗りの、高級車」
黒塗りの高級車?
「まさか、東御社長ですか?今日も何か約束が?」
「いや、特に約束はないんだが……もしかして出向のことで何か話があるのか、それとも計画に変更があったのか……」
部長の顔が青ざめている。
社長自ら計画の変更を告げにくるなんて、嫌な予感がするのも分からなくもない。やはり府網建築に一任することになった申し訳ないみたいな話だったりとか……。いや、むしろ、そういう話は部下に命じてどころか電話1本で終わりそうだけどなぁ。
まだ実際、正式な契約書を交わす前だし、建材の購入などをした後でもないし。
どちらにしても、用があるのは部長と私以外には考えられない。お弁当を広げる前でよかった。
部長と並んで来客用の入り口に向かう。
「あ」
東御社長の姿が見えた。
女嫌いの社長が、目で山崎さんを追っているのが、見えた。
そして、山崎さんに声をかけると何か話かけている。
え?
あれ?
女嫌いなんじゃないの?しかも、茉莉さんの話だと自信のありそうな美人は特に苦手だとか。
山崎さんみたいな人のことじゃないの?
東御社長に話しかけられた山崎さんはああと何か納得した顔で、こちらに顔を向けた。
そして、部長と並ぶ私に気が付いたみたいで、手を振っている。
東御社長に何かを伝えると、社長は振り返って私と部長を見てから、山崎さんに小さく頭を下げてこちらに歩いて来た。
山崎さんが東御社長の向こうで、もう一度手をふってコンビニに向かった。
ああ、単に私のことを山崎さんに尋ねただけ?でも、他にも社員がいたのに、山崎さんを選んだように見えたんだけど。
男性社員だっていたのに……視線を奪われる感じに見えたのは気のせいなのかな?
「すいません、昼休みだったんですね。近くを通りかかったついでに……その、来週の予定の打ち合わせができればと」
出向についての取り決めはこの間だいたい話をした。出勤時間は、1時間短縮。給料は一緒。短縮する理由は通勤時間が1時間以上余計にかかるようになるからだ。残業や現地視察に伴う出張などがある場合は東御グループの規定で残業代や出張代が加算されるなど。正直、金額を聞いてびっくりした。……さすが、東御グループだと。
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