第40話

「と、年上って言っても、ちょっとしか変わらないじゃないですか。それより、僕も結構いい歳で、その、子供扱いされるような年齢じゃないですと、認めてほしかっただけで……えっと、気に障ったらごめんなさい。あの、その……」

 男として見てほしいって言ってるように聞こえてきた。

 これは、もしかして、山崎さんのこと……?

「後藤、大丈夫?あんた、その調子で営業先で空気を読まずにおかしなこと言ってない?心配だわ」

「大丈夫です。これでも営業成績は上から何番目かで……」

 山崎さんがニッと笑った。

「知ってる。頑張ってるね。後藤」

 山崎さんの言葉に、後藤君がぱっと顔を輝かせる。

 あー、やっぱりだ。後藤君、山崎さんのこと。私、後藤君はおすすめだよ。ちょっと空気が読めないところも確かにあるけれど、基本的にはよく気遣いできるし。女性に対して見下したような態度はとらないし。もちろん、上司だからとか部下だからとかであからさまな態度の違いもない。お客様に対して一つずつの案件を本当に真剣に考えてるのも見てる。より良い提案ができないかと頭を悩ませてる姿も。そりゃ、それだけ親身になって考えてあげてるんだから、営業成績だって上がるよね。

 後藤君が営業部に向かったところで、山崎さんが私の耳元でささやいた。

「ねぇ、後藤君ってさ、深山に気があるんじゃない?」

 は?はぁ?

 山崎さん、人に空気を読めないようなこと言っておいて、山崎さんも全然空気読めてませんっ。

 後藤君は、私じゃなくて、明らかに山崎さんを意識していたと思います。

 誤解は解かなくちゃ。

「全く違うと思うよ。むしろ、えっと、山崎さんのこと気になってるんじゃないかな?」

「はぁ?」

 しまった。こういう周りからの声で逆に距離が開いちゃうこともあるんだ。えーっと、えーっと。

「ほ、ほら、それ、それ」

 山崎さんが手に持っていたスマホを指さす。

 うちの会社はスマホは仕事中も持ち歩きオッケーだ。なんせ、会社からスマホが支給されているのは営業など外回りする人だけ。他の社員は通信費として給料にプラスして支給されている。通話アプリで通話とメッセージのやり取りをしているので、個人情報は流れないようになっている。

「え?」

 スマホに目を落として山崎さんが首を傾げた。

「後藤君、車の鍵に付けてたのと一緒。超世紀ライディオンの宇宙連合軍のマーク」

 山崎さんがスマホケースに張ったステッカーを見た。

「ああ、そうなんだ。後藤って、こういうの好きな人だったのか。これ見て話しかけたくなったのか」

 山崎さんがふっとおかしそうに笑った。

「なんか、新しい視点で人のこと見ることができるのも楽しいね」



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