第37話
時計の針は午後8時。勤務時間は8時半~17時半なので、今日は残業2時間半。タイムカードを押して退勤。
家に着いたのは午後9時。
「ただいまぁ~」
玄関を開けると、バタバタと優斗が玄関まで走ってきた。
お帰りママ!と、帰るのを家で一人で待っていた小学生のころを思い出す。
心細かったのか、いつも玄関の音ですぐに走ってきていた。……そうだ。あれは小学校3年生のころだ。
2年生までは学童があって、学校の後は18時まで預かってもらえていた。3年生になると学童がなくなって、小学校が終わって家に帰った16時くらいから家で一人ですごす2時間はどれだけ長く感じたことだろう。
せめて、兄弟がいれば……。
って、帰ってこんなに息せきって玄関に走ってくるなんて、高校生でも一人で留守番はまだ寂しいのかな?
兄弟がいれば……。
と、首をかしげるとおかえりも言わずに優斗が私の手をとった。
「大変、ちょっと来て、大変っ」
「何?何があったの?」
大変という言葉に心臓が跳ね上がる。
怪我?病気?いや。元気そうだから、何か壊した?燃やした?何があったの?
手を引っ張られるままに優斗の部屋に入る。
「見て、これ!コメントが炎上……いや、別に悪いこと書かれてるわけじゃないんだけど、すごいスピードでコメントが書かれてるっ!」
なんだ。動画のコメントか。
「びっくりして損しちゃった。何もなくてよかった」
「何にもなくないよ!すごいよ、昨日のコメントに母さんが一言ずつ言った動画!あれ見て自分も話しかけてほしいってめちゃコメントが来てて」
え?
コメント数、340って出てる。
「ごめん、優斗……さすがにもう昨日みたいには無理かな……」
340ものコメントに一言ずつ返すなんて絶対無理。あ、コメントがまた増えた。
「無理なのは分かってるけど、あー、こんなに反響あるんだ。ほら、ヒガドンからもコメントあるよ」
ああ、確か仕事で無理しそうな感じの。
「春たんに言われて、ちゃんと休み時間は休むように改めることにしました。心配させたくない。心配してくれてありがとう。春たんも無理しないでね。声が聴きたいけれど、また、話しかけてもらいたいけれど、無理してほしくないから」
春たん?そうか。優斗の作ったキャラクターって、春っていうのか。はる……。春香とか春子とか?割と渋い名前ね。
「ヒガドンさん、いい人ね。お礼言われちゃった。それに、私の心配もしてくれるなんて。あ、私じゃないか。優斗もほどほどにね。楽しいのは分かるけど……」
「ふふ、無理なんてしてないよ。ちゃんと宿題も終わったあとからしかやってないし、夜23時までには寝るようにしてる」
くっ。
うちの優斗がいい子過ぎる件について。誰かに話をしたいのですが、誰か聞いてください。うちの子天使なんです。ええ、ええ、実は赤ちゃんの頃だけが天使の時期だと思っていたころもありました。違うんですよ、高校生になっても我が子は天使!
……私、子離れできるかしら?ちょっと心配になってきた……。
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