第36話
「山崎さんおはよう」
「おはよう深山。ん?なんか今日はいつもより少し化粧薄い?」
「あはは、流石、毎日顔を合わせているだけのことはある。バレた?引継ぎの準備で残業していこうと思って。夕飯の支度をしてたら、時間が……」
山崎さんが私の言葉を聞いて、ちょっと眉を下げた。
「大変だねぇ~。って、たいへんなのは、深山がいない間の私もだけど。ったく。大手企業だからってちょっと話が急だよね」
山崎さんが小さくため息をついて、椅子に座る。
「ごめんね、私が余計なことを言わなければこんなことにはならなかったのに……」
「深山のせいじゃないって。むしろ会社にとっては大きな仕事につながるチャンスなんだから、頑張って!あの女嫌い社長に嫌なことされたらすぐに言うんだよ?私が文句言ってやるから!」
山崎さんのやさしさに、涙がこぼれそうになる。
「うん、頑張るね」
山崎さんに何か恩返ししたいな。いや、恩返しは、この仕事を成功させることかな?この先にもつながる大きな仕事になれば会社が潤うでしょう。
そうしたら給料が上げてもらえるかもしれない。恩返しになるよね。よし、頑張るぞ!
あ、恩返しと言えば……。
昼休み。
「山崎さん、これ」
ロッカーに入れた鞄から、漫画を3冊と、チャームを取り出す。
「え?」
「昨日言ってた、漫画と、それからこれは、機動戦闘機アジサイというアニメの秘密結社のマーク」
チャームは、アジサイの花びら……じゃない、花に見える部分は実はガクなんだってね。そのガクを簡素化してデザインされたマークが描かれている。紫色の親指の爪くらいの大きさの金属製のものだ。
「うわ、かわいい。これ、本当にアニメグッズなの?」
「ふふ、見えないでしょ?でも見る人が見ればすぐに分かるの。でも知らない人が見ればただのかわいいアイテム。山崎さん、紫色の財布使ってたから、合うんじゃないかと思って」
山崎さんが、私の言葉に財布をロッカーから取り出した。
紫色の長財布。タイル模様のように少しずつ色の違う紫色が並んでいて、とてもきれいだ。
そこに私が渡したチャームを近づける。
「本当、合う!もらっていいの?」
「うん。息子がガチャガチャで出したやつだけど、かぶってるからって」
「ありがとう、これいいわ、って、待って、財布に付けても、誰にも気が付かれなくない?財布なんて出す機会そんなにないよ?」
あ。言われて気が付く。
「いつも行くコンビニの店員とか?」
「ちょ、コンビニの店員は無理だよ、あ、馬鹿にしてるとかじゃなくて、若い子ばっかだもん。学生でしょ」
そうか。確かにアルバイトかパートの女性が多いか……。
無駄に財布を持ち歩くのもおかしいし。
「今度は鞄に付けられそうなもの持ってくるね」
後はペンとか。事務服の胸ポケットにはペンを何本かさせるようになってる。クリップの部分が見る人が見れば分かるペンみたいなものもあったよね。うーん。あとは、スマホカバーにちょっと付けられるアイテムとか……。
どんな場面で誰の目に留まるか分からないから、いろいろ持ってきて渡そう。使えそうなら使ってってことの方が早いよね。
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