第34話
優斗もきっとこういうテンション、いや、もっと熱狂的な言葉も使ってるかもしれないけど、好きなものに対していろいろ言ってるよね。
私だって、心の中ではかなりいろいろ叫んでたりするもん。決してオタクキモみたいなことを思ったりしない。
「違うからね、優斗。別におかしな人だとは思ってなくて。むしろ好きなものがあって、好きって言えるのはうらやましいくらいで。そうじゃなくて、大丈夫っていうのは、お昼休みの時間にも仕事してるってことだよね?思考が中断されなくていいとか、仕事がはかどるとか……。休み時間にはちゃんと休まないと……」
優斗が目を開いた。
「……すご。母さんってすごいね」
「は?何が?」
「心配しちゃうのが」
……そう?あれ?普通に心配するよね……?
普通じゃない?もしかして……私、このコメント書いてる人達が、優斗のお友達みたいな感覚で。優斗のお友達だとすれば、そりゃ、普通に心配もしちゃうというか……。
「んじゃ、ちょっとヒガドンさんにちゃんと休むように言ってあげてくれる?ヒガドンさんは、有力候補なんだよね」
「有力候補?」
「あ、ううん、何でもない。ヒガドンさんはちゃんと仕事してるし、気遣いもできるし、本当、いいひとだから。僕と趣味もあうし、もちろん独身」
もしかして、ネットのお友達になれそうな人有力候補?
それにしても、もちろん独身って。趣味が合う人が独身っていうのは、母さんとしてはちょっと複雑な気持ちだよ……優斗。
「んじゃ、母さん、コメントに対して言いたいことがあればどんどん言って」
録音かぁ。
「えーっと、あの、ヒガドンさん、お昼休みの時間にはちゃんと休んで無理をしないでくださいね。マルーノさん、お弁当を作ってくれるお母さんにありがとうって伝えてあげると喜ぶと思います。なんちゃから……あーごめんなさい、なんちゃかるらるるらさん毎日卵焼きを作るのなら、四角い卵焼き用のフライパンがあると便利だと思います。えりちゃんさん――」
コメントを見ながら思ったことを話す。
「うわー、まさか、コメント全部に一言ずつ言うとは思わなかった……」
優斗があきれ顔をしている。
「え?でも、その……誰かだけとかにすると……」
友達同士仲悪くなったりしない?
って、私、もうすっかり優斗のお友達意識が抜けないね。
「ううん、ありがとう母さん。珍しく長い動画作れる!んじゃ、さっそく作業するから」
優斗が嬉しそうだ。その顔を見ていると私も嬉しい。
のめりこめることがあって、よかった。楽しめるものがあってよかった。それに協力できて……いや、ちょっと垣間見ることができるなんて、私はとても幸せな母親だよね。息子との距離が開いちゃうなんてよく聞く話だもの。あ、でもマザコンにならないように適度に距離はとらなくちゃ。
「集中したいから、出て行ってくれる?」
うっ。優斗が冷たい。
ああでも、適度な距離……。すごすごと部屋を出ていく。
リビングに戻り、リモコンを手に、テレビのスイッチをオンにする。
優斗も、もう高校生か。
大学は家から通える場所だろうか。就職は地元だろうか。
一人暮らしを早ければあと3年もしないうちに始める可能性がある。優斗が家を出れば、私も一人暮らしだ。
3年後……41の私。
急に一人暮らしに戻って……寂しいだろうな。
ぎゅっと唇をかみしめる。
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