第33話

 優斗がタオルを手に取り、拭きながらキッチンを出て、すぐにスマホを片手に戻ってきた。

「えーっと、もういい?」

 スマホを向けられたのでお弁当の予定を口にする。

「明日は、今日の夕飯の残りの回鍋肉と、いつもの卵焼きと、ご飯とプチトマト、あと冷凍食品は何がいい?回鍋肉が野菜だから肉系がいいかな。あ、中華で合わせて肉団子にしようか?うん。そうするね」

 優斗がスマホを操作する。録音停止したのかな。

「ありがとう、母さん。じゃぁ、さっそく今日の動画アップしてくる」

 は?

「ちょっと、優斗、まさか今の録音って……」

 水色の髪のあのかわいいキャラクターの声にするの?

「ちょっと、お弁当のメニューなんて……それに、夕飯の残りだとか、いつものとか、冷凍食品とかはっきり言っちゃったし……」

 ……。

「ゆ、優斗待って、動画って、お弁当の……」

 万が一ということもあるので、慌てて優斗を追いかける。

「うん?あー、いや、実は……ごめんなさい。前からこっそり録音して……」

 は?

 優斗のPC画面には、水色の髪の毛の優し気な微笑みを浮かべたキャラクター。そういえば、名前はなんだったかな?

 そのキャラクターが、お弁当の写真の説明を……。

「って、そのお弁当、今日の優斗の弁当よね!」

「うん。食べる前に写真を撮った」

 そして、流れる私の声。

「カレージャガイモ、アスパラベーコン、卵焼き、プチトマト、鮭ご飯」

 ……そういえば、朝、なんか録音されてたな。

 コメント欄を見せられる。

 アスパラベーコン買ってきた!

 昼ごはんは外食ばっかりだったけど、お弁当作って持って行くようになった!明日は何だろう。

 お母さんにこういう弁当が食べたいって言ったら、メニュー考えなくて楽だから助かるっていつも同じの用意してくれる。……ただし、じゃがいものカレーはないから、カレーコロッケになった。……冷凍食品じゃねぇか、それもwww

 真似しやすいのがいい。彩もそれでいて華やか!毎日おんなじ卵焼きとプチトマトってのが黄色と赤だからか。

「……毎日、卵焼きとプチトマトって……ばれてる……」

「そりゃ、そろそろ20くらい写真上げてるから」

 20?

「ちょ、優斗……先に言ってくれればもうちょっと頑張ったのに……」

 優斗がにこりと笑った。

「なんで?毎日お弁当作ってくれるだけで母さんは頑張ってると思うよ?いつもありがとう」

 うわ、うちの子天使だわ。

「それに、ほら、コメントにもあるけど、真似しやすいところが好評なんだよ?今までお弁当作ったことのない一人暮らしの人とかもお弁当に目覚めてるみたいだし……えーっと、ほら、この人とか」

 と、コメントの一つを指さした。

「ヒガドンさん?」

 仕事を中断して外に食べに行くより、仕事部屋で弁当を食べると思考が中断されなくていい!いや、思考は中断されるなぁ。まるで春たんと一緒にお弁当を食べている気持ちになれて、テンション上がって仕事もはかどる!

 ……。

「えーっと、優斗……この人、大丈夫?」

 心配になって思わず優斗に尋ねる。

「え?まさか、こういうコメント書く人嫌い?かなりコアなファンだけど、悪い人じゃないよ。ただ、ファンとしては普通のテンションの書き込みで……」

 あ。私の言葉が足りなかったかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る