第32話
駅までの道を歩きながら、ふと空を見上げる。
優斗に渡された曲を覚えるために、イヤホンを耳にする。
優斗の作る音は、テンポの速い曲でもなぜか優しい。ガンガンと責め立てるような痛さがない。
世の中への不満を吐きだすような、中二病チックな色もない。
優しい。
歌詞は、VTuberが画面から飛び出して恋人になるみたいなちょっとファンタジーなものだけど。
仮に入っている歌は機械的な音。うん、もしかしたら、歌の頭はちょっと機械っぽい歌い方をして、途中から人間味があふれるような歌い方をした方がいいのかもしれない。
あなたと出会って、人間になりたくて人間になったみたいなのが歌詞にもあるから、人間になる前となった後が強調されるような?
一同優斗にも相談してみよう。
機械的な歌い方はこの仮歌を手本に……って、こんな風に歌えるかな?
「いいね!母さん!そのアイデアグッドだよ!」
食事をしながら、優斗に歌い方について相談してみた。
「機械っぽいように歌を加工することもできるし、エコーみたいに、生でも歌っているときに音に色付けられるから、その辺は僕に任せて。母さんは歌うことに集中してくれればいいから」
「そうなの?優斗は何でもできるのね」
「ねぇ、母さん、そんなアイデア浮かぶってことは、もう歌覚えたの?じゃぁさっそくレコーディング、ご飯終わったらさ」
優斗が口から米粒を飛ばしながら話す。
もう、口にものを入れてしゃべってはいけませんよ。
「ごめん、まだサビの部分以外はちょっとうろ覚えで。もう少しかかる……。ご飯終わったらちょっと練習するから」
「土曜日の夜に生放送だから、それまでには大丈夫そう?」
ああそうだ。生放送するって言ってたよね。
今日が火曜日。
水木金と3日か……。あーでも。
「優斗、明日からちょっと残業してくるから。夕飯は用意しておくから先に食べててくれる?」
「うん、分かった。あーじゃぁ、レコーディングは土曜日かな?それまでなら覚えられそう?」
土曜日まで、3日。夕食は作ってから出るから、家に帰ってから寝るまで曲を聴きっぱなしで3時間を3日。
「たぶん、大丈夫だと思う」
「じゃぁ、さっそく練習してて。片づけは僕がするから」
食べ終わった食器をもって、優斗が立ち上がる。私の前の空になった食器も持って行くと、ジャーっと流しで洗い始めた。
なんだか、すごく期待されている?
「妹のため、妹のため。ふふふーん」
鼻歌まで歌っている。
けど、妹のためって何?新しい歌を考えてるのかな?どんどん歌を覚えないといけない?うわー、大丈夫かな私。
って、大丈夫といえば、来週から出向……。
「あ、そうだ母さん、明日の弁当のおかず何?」
「え?明日は夕飯の残りの」
答えようと思ったら、優斗が慌てて水道を止めた。
「ちょっと待って、録音させて!」
「録音?」
忘れないように?メモして渡してあげようかしら?
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