第29話
「そう。目を合わせただけで誘惑する気なのかと疑い機嫌が悪くなるって聞いたわ。だけど、私はコレのおかげか、警戒されることもなかったみたい」
左手の薬指のマリッジリングを山崎さんに見せる。
「ふぅん。あんなにいい男だったら、人妻だろうがほっとかなかったような気がするけど、今までは無事だったのかな?」
山崎さんが首を傾げた。
うーん、確かに人妻でも貞操観念がちょっとな人もいるよね。大きな子供がいるとか、アラフォーだとかいろいろ他にも私は対象外だろうって思うようなことがあったのかな?
「んー、なんか、昨日の会議で意見を求められ、ベビーカーに不便そうだって言っちゃったんだよね。家族向けって言いながら、全然子連れの大変さ分かってないって思ったらつい……」
「あはー、そうか。きっとそれね。子供思いだってことが伝わったんだろうね。媚びを売るわけでもないはっきり駄目だししたところとかもよかったのかもよ。それで、深山は女嫌いの対象外になったんだね」
山崎さんの言葉に、なぜかちょっとだけ胸の奥がささくれた。
女嫌いの対象外。それは、決して女として見ないということ。
恋愛がしたいわけじゃない。東御社長が好きなわけでもない。それでも、もはや女の範疇にないと思われるのは少し複雑だ。
「で、なんで車に乗ってたわけ?」
「ああ、それは駅を出たところで声をかけられて。カーナビだけではたどり着く自信がないとかで道案内を頼まれて」
タイムカードは手書きで時間を書き込む。部長が事情を知っているので確認印をしてもらわないと。
「ふぅーん。駅を出たところで偶然?いくら見かけても車を駐車して降りて追いかけて声をかけるの、めんどくさそうなのにねぇ。それなら近くまでとりあえず行って、迷ったら電話でもすればいいのに」
そういわれると……確かにそうかもしれない。大きな車を道の端に寄せて止めるのだって、とっさにできる行動ではない。いや、運転になれていればとっさでもできるのだろうか?
まるで、駅から出てくる誰かを待っているかのような場所に車は止められていた。
もしかしたら、会社に電話して誰か道案内を頼もうと駅に止めたのかもしれない。そこに私が偶然通りかかったとか。
「で、乗り心地はどうだったの?何か会話した?」
山崎さんが興味津々と言った声に戻る。
「玉の輿を狙ってみる?」
「冗談でしょう?女嫌いってだけでも何様って思うけど、私、イケメン嫌いなんだよね。ちょっとふっくらしてるくらいの、細かいことを気にしない懐の広そうな人が好きだって、深山も知ってるでしょ?」
そういえば、そういってた。
でも、そういうタイプって、できる女メイクしてる迫力美人の山崎さんみたいなタイプだとものおじしちゃってなかなかこう、出会いの段階でうまく行かないんだよね。山崎さん怖くないのになぁ。
おせっかいなくらい親切で面倒見はいいし、言葉はきついけど理不尽なことは言わないし。
「それより、噂だと、見たこともないような高級車だって、ほら、テレビでも話題になった椅子が違うとかなんとかいうあの車だったって言うし、どうだったのかなって。それに、ああいう人は何を話するのかと単純に気になって」
カチャカチャとファイルを開いて確認しながら、来週から必要になりそうな資料やファイルをまとめていく。
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