第28話

 ……あ!もしかして!

 妹の茉莉さんが言っていた、女嫌い……。茉莉さんが言うには、女性に嫌な目にあうと、仕事量が3倍になるとか。それが本当なら、社内ではなるべく女性社員を近づけないようにとしていた可能性も。

 いや、でも子育て経験がある人なら対象外なのでは?ああでも、むしろ子育て中なら仕事が3倍になると大変だから、なるべくやりたがらないとか?

 どちらにしても、女嫌いという個人的事情が絡んでいるとしたら、言えるわけもないですよね……。

「そりゃ、福祉住環境コーディネーターの資格もあるし、大学では建築を学んでいて、わが社でも10年以上勤務しているからだろう。なかなか女性で建築に関する知識を持つ人は少ない」

 部長が私に事を自慢するように口を開いた。

 確かに、普通の女性よりは建築に関する知識はありますが。10年以上の勤務は、あくまでも事務員としてですからね?

「それでしたら、私よりも知識のある方をアドバイザーとして迎えたほうが……」

 いいと、思うんですけどと言う言葉の途中に東御社長が口を開いた。

「深山さんは迷惑ですか?出向して……私と働くのは」

 うわー。迷惑だなんて言えるわけないじゃない。実際、迷惑だとは思ってない。ただ……。

「い、いえ、迷惑だとは。その、私でお役に立てるのかと不安なだけで……」

 あとは、社長のような素敵な男性の近くにいると緊張するので。

「それでは、来週からお願いできますか?」

「ええ、もちろん」

 部長が笑顔で東御社長に答えた。

 いや、えー。ら、来週から?

「よかった。深山さんの声がたくさん聴ける」

 私の意見がたくさん聞けることがそんなに嬉しいのだろうか。

 東御社長が、視線な笑みを浮かべた。

 少し冷たい印象もある切れ長の目が、細められ、柔らかくほほ笑んだことで、ふわっと東御社長の魅力がさらに増して広がる。

 ……これは、女性が社長に猛アタックするの分かる。決して、お金持ちだから玉の輿を狙っているという下心だけという話じゃないだろうな。

 その笑顔を私だけに向けてほしいと、本気で思っている人もいるんだろう。

 まぁ、東御社長からすれば、いろいろとそれで苦労した挙句に女性不審……女嫌いになってしまったというのは皮肉な話だけれど。

 それから、部長と今後のスケジュールを軽く打ち合わせてから、東御社長は帰っていった。

「ちょ、なに、あのイケメン!なんで、深山がイケメンの車で出社してきたって、噂になってるわよ」

 10時少し前に事務服に着替えて席に着くと、隣で書類を整理しながら山崎さんが興奮気味に話しかけてきた。

 ワクワクした感情が言葉の端々から伝わってくる。

「東御社長よ」

 すぐに、山崎さんの顔がうっとゆがむ。

「なんだ、女嫌いっていう?昨日の話だと、会社に着くなり妹さんから女嫌いだから注意して接してって言われたくらい重症なんでしょ?なんで深山を車に乗せたわけ?」

 あまりの変わり身の早さにちょっとおかしくなった。

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