第27話
「実は、あれから社内会議で二棲建築さんの話を検討しましてね。今回、府網建築さんと二棲建築さんに半々に仕事をお願いしようという話にまとまったんですよ」
ガタンと音を立てて部長が席を立った。
「ほ、本当ですか?うちが、半分とはいえ、仕事を!」
「ええ。まぁ、まだ社内でいくつか話を詰めないといけない部分もあるんですが。車いすで不便な場所はベビーカーでも不便だという言葉は随分重かったですよ」
東御社長が私を見た。
「あはは、まぁ、うちの深山は、子育て経験があるだけではなく、福祉住環境コーディネーターの資格も持っていますからね」
部長がぽんっと私の肩をたたくと、なぜか東御社長がムッとする。
「女性社員に気軽に手を触れるものではないと思いますが」
もしかして、セクハラを容認している会社だと思われたのかな?
部長のこれは癖みたいなもので、むしろ、よくやったと褒めたたえるときの動作なんだけどな。世間での「肩をたたく」というのとは意味合いが違う。
私、部長に褒められてるって思って嬉しいくらいなんだけれど。そういうことをいちいち説明するのも変ですかね。
「ああ、お見苦しいところをお見せしてしまいました、ですが、東御ホテルグループでは、セクハラに対して厳しいということがよくわかりました。これでしたら、安心して深山くんを預けられるというものです」
は?
部長、私を預ける?
「なるほど、深山さんの肩に触れたのは、私の反応を確かめるためと、私が試されていたんですね」
東御社長がふっと表情を緩めた。
「いやいや、試すだなんて。そんな大それたこと……」
部長が慌てて額の汗をぬぐっている。
「あの、さっぱり話が分からないのですが……」
そもそも私がこの場にいる理由も分からないというのに……だって、設計した人間でもない。営業というわけでもない。
ただの事務員だ。昨日だって、急遽連れていかれただけの人間だ。
東御社長が私を見た。
美しい瞳が私をとらえる。いやいや、視線を逸らすわけにはいかないけれど、ちょっとオーラがまぶしい。
まるっきり私に気があるわけじゃないと分かっているのに、視線に射抜かれるようにドキドキするくらいには威力がある。
「二棲建築さんに仕事をお願いすることになったら、深山さんをしばらく出向という形でお借りしたいとお願いしたんですよ」
「わ、私が出向?」
出向って、二棲建築の社員のままで、仕事は東御ホテルでするっていうこと、だよね?
な、なんで?
私、事務員だよ?
嬉しそうににこにこと笑顔の東御社長。
横に座る部長を見る。
「いや、ファミリー向けで、ベビーカーを必要とする小さな子供がいるお客様にも快適な離れをと、もう一度いろいろと見直したいそうなんだ。そのうえで、うちも設計を変更することになる」
いえ、確かに、ベビーカーでは不便ですよねと言ったのは私だけれど。
「あの、東御ホテルグループには社員も多いですし、子育ての経験者もいらっしゃるのでは?なぜ、私なんですか?」
私の問いに、東御社長が視線をそらした。
何か、言いにくいこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます