第26話
いったい何?と思って視線の先を見ると東御社長がすごく冷ややかな顔で花村さんを見ていた。
ひぃっ。
そうだった。女嫌いだった。私とは普通に会話しているから、大丈夫なのかと思ったけれど……。独身の女性はやっぱりだめですか。
よほどひどい目にあったのだろうか。
「お茶を用意してくれる?私が案内するので」
任せるわけにはいかないと、会議室まで案内することにした。
「東御社長こちらです。あの、ところでどなたと約束を?すぐに呼んでまいりますので」
来客用の場所は会議室と打ち合わせ室がある。打ち合わせ室は、簡単な仕切りで区切られて何組も入れる部屋だ。
ふと、そう声をかけて疑問に思う。
あれ?会議ではなく打ち合わせ?あれ?
「あの、東御社長はおひとりでいらっしゃったんですか?後からどなたか見えますか?」
「一人だ」
そうなんだ。昨日の会議の様子だとワンマン社長で一人で何かを決めるようなことはなかった印象だけれど。
「いえ、その、君のことがどうしても忘れられなくて」
「え?私のこと?」
忘れられない?
「声が……」
声?
「もしかして、不便そうだと言ったことでしょうか?」
「いつもは、こんなことはないんだ。公私混同するようなこと。だけれど、どうしても混乱してしまって。自分の行動が止められずに……」
?公私混同?
まさか、社長としては、冷静に判断できるけれど、私的には女嫌いが発動して、私の発言が引っかかって仕方がなかったとか?
……まぁ、あれですよね。これだけかっこよければあまり女性が東御社長に何か意見をすることも少ないでしょうし。かなり気に障って……。
あれ?
道で声をかけられ、車に乗って話をしているときに、私に腹を立てているような感じは少しもしなかったけれど……。
「ああ、お待たせいたしました。東御社長、遅くなって申しわけありません」
部長が入ってきた。
ああ、部長との約束だったんだ。
「いえ、約束の時間にはまだあります。私が早く着きすぎただけです。急がせてしまってむしろ申し訳ない」
部長と東御社長が挨拶を交わしている。
「では、私はここで」
まだ、タイムカードも押してないし、事務服に着替えてもいない。
「あ、いや、深山くんにも関係する話だ。このままいてくれ」
部長の言葉に動きが止まる。そんなぁ。せっかく部長がきたから、東御社長の相手から解放されると思ったのに。
緊張するんですよ。俳優のようなイケメンとの会話。
しかも、社長なんですよ?全然私と住む世界が違う人間なんですよ?
ノックの音がして、女子社員がお茶を運んできた。
お盆の上には、3つのカップ。部長から聞いたのか、初めから3人で話をする予定だったようだ。
「ありがとう、あとはやります」
お盆を受け取り、着席した東御社長と部長にお茶を出し、もう一つのカップもテーブルに置いて部長の隣に座る。東御社長の斜め前だ。
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