第24話
東御社長が車のエンジンをかける。
ああ、キーを差し込まなくてもエンジンがかかる車だ。
エンジンがかかると、音楽が心地よい音量で流れ始める。
ん?
どこかで聞いたことのある曲。
何だったかなぁ。
あー、駄目。気になる。えっと、聞いたことがるのに、何だったか思い出せないのって、地味に気になる。
これが、東御社長じゃなければ「この曲なんでしたっけ?」って尋ねれば済むんだけど。
あ!思い出した!
「ガンダリム!」
しまった。思わず思い出してすっきりした勢いで口に出しちゃった。
慌ててハッと口をふさぐ。
「あ、え?えええ?あの?」
東御社長が大げさなくらい大きな声を出した。
そりゃ驚くよね。いきなりガンダリムって言う人間がいれば……。
「いえ、すいません、えっと……この曲、ガンダリムの映画の挿入歌だったんですよ。歌っている歌手の方が有名なので、あまり知っている人も少ないと思うんですが……」
東御社長が、信号待ちで止まっている間に、私の顔をまじまじと見ている。
「なぜ、それを……?」
東御社長が期待に満ちた目をしているように見える。
「息子がガンダリムが好きで、よく家で聞いていたので」
と、正直に答えると、ちょっとがっかりしたような顔を東御社長が見せた。
もしかして、車で聞くくらいだから、この歌手のファンなのかな……。それで、マイナーな情報も知っている私のことを、同じファンだと思って期待した?
……ごめんなさい。私、あまり歌手とか特定の推しがなくて。いい歌だなぁと思えば何でも聞くタイプなんです。
「そうですか、なるほど」
一瞬で東御社長は表情を戻した。
パッパーと、小さくクラクションを鳴らされる。
「おっと」
前を向けば信号がいつの間にか青に変わっていた。
「すいません、いつもはこんなことはないのですけど。深山さんが隣にいて話をしている状態に、慣れなくて」
そうなんだ。やっぱり普段は助手席に誰かを乗せることはないってことなのかな。
「いえ、あの、私こそ突然声を上げたりしてすいませんでした。ナビに徹しますね。300m先交差点を右です」
「あははは、ここナビ……なんという贅沢」
「え?」
「あー、会話も楽しめるナビなんて、贅沢だなと」
「そういっていただければ幸いです」
楽しそうに笑い声を上げて笑う東御社長。
どうやら、私、今のところ失礼なことして怒らせたということはないようです。ほっと息を吐きだす。
「次の角を曲がると、白地に青い文字で二棲建築の看板が見えると思います。その向こう側が駐車場になっているので」
うちの会社は少し郊外にある。社用車を止めるための駐車場が必要だからな。現場に機材を運ぶための大きな車もある。
昔に比べて、現場にちょっとした機材や道具を置いておくだけで、盗難されるので毎日運ぶ必要があるため、人だけが現場に行けばいいわけじゃないのだ。
棟上げのときに使うようなクレーン車など特殊車両などは、クレーン会社などにその都度依頼しているためない。
ウインカーがカチカチと音を立て、見慣れた我が社の駐車場に、まるっきり見慣れない高級車が入っていく。
数人の社員がすでに駐車場にいた。
東御社長が、慣れた手つきでバックで車を止めるのを、ポカーンとして見ている。
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スイマセン、数話前更新ミスで話が飛んでおりました。目次の日付を見てください。不自然に5日の前に6日となっている部分がそれです。
今後ともよろしくお願いいたします。オタクネタは、元ネタが分かるものもあれば完全に創作したものもあるので、元ネタこれ分かんないぞと思っても気にしないでください。ガンダリムは元ネタあります。ええ、有名なあれです。
引き続きよろしくお願いいたします。
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