第20話

「あー今日はカレーだ。うれしいなぁ」

 ニコニコとかわいい笑顔を見せる優斗。いや、かわいいはそろそろ卒業する16歳男子ですが。私にとればずっとかわいい息子なんですよ。親ばかですから。

 だって、カレーが嬉しいなんてかわいいこと言ってくれるでしょう?

「早く早く!」

 我が家のルールだ。

 私が家にいるときは、必ず2人が席についてからいただきますをする。

 シングルマザーで何かと忙しいけれど、洗濯をしながらとか洗い物をしながらとかながら食べはしない。優斗を食卓で一人にしない。

 残業などでどうしても一人で食べてもらわなければいけないときは、手紙と音声レコーダーを残すようにした。

 例えば「今日の夕飯はお好み焼きです。冷蔵庫に入っています。電子レンジで5分加熱してください。加熱したら皿が熱くなってますから、必ずミトンをはめて両手で取り出すようにね」といった感じ。

 席について、二人で手を合わせる。

「今日の夕飯はカレーとコロッケです」

 私がメニューを言うと、優斗が「いただきます」と言い、私が「はい、いただきます」と返す。

 いつもの光景。

「VTuberってさ、今何人くらいいるか知ってる?」

 優斗ががつがつとカレーを1杯たべ、お代わりをついだところで少しお腹が落ち着いたのか話を始める。

「さぁ?」

「もう、めっちゃ多いんだよ。その中で成功してるのなんて、ほんのスーパーセントどころか、コンマスーパーセントかな。ほとんど誰にも注目もされずに終わるんだ。後発は特に悲惨。小遣い稼ぎどころか、初期投資も回収できない人ばっかりじゃない?人によってはキャラクター制作を外注したりで金使ってる人もいるみたいだし」

 優斗がこんなにおしゃべりするのも珍しい。

 やっぱり好きなことだとたくさん話がしたくなるもんなんだな。

「へぇー。優斗は、自分で全部できちゃうんだからすごいね」

 お金を出してプロに頼む人もいるのか。みんな趣味で自分で作ってるわけじゃないんだね。

 素直にほめると、優斗がちょっと照れた顔をする。

「学校にさ、詳しいやついて、教えてもらえるし」

 なるほど。

「いい友達を持ったね」

 世間ではオタクだとか言われる部類だ。リア充と呼ばれる子たちが白い目で見ることもあるだろう。

 だけど、好きなことを教え合ったり、それを感謝したりできるって素晴らしいことだよね。

「でさ、その友達ともいろいろ考えたんだよ。星の数ほどいるVTuberの中で、頭一つ出るにはどうすればいいかってさ」

 へー。そんなことまで考えてるのか。すごいなぁ。

「面白いことをしてバズるとか」

 うんうん。一歩間違えれば炎上する危険もあるけれど、基本ですよね。

「ゲームの実況で、そもそものゲームファンを引き込むとか」

「え?私、ゲームなんてできないよ?」

「いや、母さんには期待してないし、ゲームの実況系も結構頭打ちな感じはある」

 そうか。

「なんつぅか、皆がまねするから、個性がない。逆にファンの少ないマイナーゲームの実況をしてファンを引き込むんじゃなくて、面白系でバズる方がまだ可能性があるかもしれない……とにかく、いろいろ考えてさ。歌ってみたで、人気の曲を歌いまくるとか」

 なるほど。なるほど。確かに、流行曲で動画を検索するってありますよね。

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