第19話

「優斗、ご飯だよー」

 何度読んでも返事がないことが続いたので、部屋まで呼びに行くようになった。ヘッドフォンをして作業してると聞こえないんだってさ。

 こんこんと部屋をノックしても反応なし。

 ドア開けてPC画面に向かって座っている優斗のすぐ後ろに立つ。

「何見てるの?」

 画面をのぞき込むと、やっと優斗は私が来たことに気が付いたのか、大慌てで体をのけぞらせた。

「うわぁぁ!母さん、びっくりした、ノックくらい」

 しましたけど。という顔をして見せる。

「あー、いやぁ、ほら、生配信の予告をした反応見てた」

 SNSの画面だろうか。優斗の作ったキャラクターのアイコン。

 それから他のアイコン。短文が続きている。

『ついに!ついに!生放送!』

『正座待機』

『やばみ、やばみ、やばみがやばい』

「へぇー、楽しみにしてくれている人がいるんだね……誰かが見るんだと思うと、今更ながら緊張してきた……」

 大丈夫かなと、不安げな言葉を口にすると優斗がにこりと笑った。

「台本あるし、生放送っていっても、台本通りに進めれば全然問題ないよ」

 って言ったって。

「さっきも、ちょっとかんじゃったし」

 というと、優斗がえへっと笑った。

「あー、うん、大丈夫」

 と、優斗が視線をそらした。何、それ、全然大丈夫な感じがしないけど……。

 SNSの画面がスクロールしていき、動画が自動再生される。

 優斗の作ったVTuberのキャラクターが動く動画だ。

 うわ、私が夕飯作ってる間に、もう動画にしてアップしたんだ。

『今、オリジナル曲を練習していましゅ……って、あ、緊張してかんじゃった。もう1回、言いなおすね。今、オリジナル曲を練習しています』

 ……は?

「ちょ、優斗!噛んだやつ、そのまま、そのまま使ったの?」

 うわぁーっ。

 恥ずかしい、恥ずかしい。

 と、真っ赤になっていると、水色の髪の天使のようなキャラクターも私のようにほほを染めている。

 ぐっ、キャラクターとすればかわいいのかな?でも、中身の私は素で間違えたんだし、恥ずかしいんですけれど……。

「大丈夫だよ、うん、大丈夫、ほら」

 優斗が動画に対する反応を見せてくれる。

『僕は土曜日の生放送正座待機していましゅ』

『同じく、正座待機していましゅ』

 ……。

「からかわれている?」

「違うよ、喜んでるの!」

 喜ばれてるの?

「ああ、ドジっ子みたいなキャラなのかな……」

 ドジっ子キャラクターって、確かに人気ありそうだけど。

「素で間違えてるのって……40歳近くにもなって……」

 額を抑える。

「若い子ならドジっ子もかわいいんだろうけど……声が私なんて知られたら、年齢のせいで舌が回らないとか思われそうだわ……」

 私の言葉に、優斗がびっくりする事実を口にする。

「ああ、問題ないよ。この子は、アラフォーキャラ設定だから」

 にこっと笑ってPCをスリープ操作する優斗。

 は、い?

「今、アラフォーって聞こえたけど?」

「そう。アラフォー。だから、発言が若者らしくないとか全然気にしなくてガンガンしゃべっていいから」

 優斗が部屋を出てキッチンに向かう。

「ちょっと、優斗、な、なんでアラフォーなんて、そんなの人気出ないでしょう?せっかく作ったのに、そんな設定付けちゃったら……」

 優斗がキッチンテーブルに腰掛けて、私を手招きする。

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