第18話

「ただいま」

「お帰り、母さん!歌、覚えた?」

 帰ると、優斗が玄関まで小走りで駆けてきた。

 うえ?そんなに期待されてる?

「ごめん、まだちょっと……覚えられなくて……」

 っていうか、昨日渡されての、今日だよ?しかも平日!覚えられないでしょう!

「うん、だよね。じゃぁさ、代わりにこれ、お願い」

 は?代わりに?

 渡されたメモ書きには3行。

「今、オリジナル曲を練習しています……?」

 メモの1つ目を読み上げると、優斗が待ったをかける。

「待って、録音準備してから!」

「は?録音?」

「声やってくれるんだよね!生配信の予告もしたいし、母さん来て!」

 靴も脱いでないのに袖を引っ張られた。

 あー、懐かしい。3歳くらいのころ、ママ、ママ、って、こちらの状態も無視してよく手を引っ張られたなぁ。

 鞄を玄関先に置き、慌てて靴を脱ぎ捨てて引っ張られるままに優斗の部屋に行くと、マイクを渡された。

「んじゃ、録音するから、まず1つめお願い」

 いきなり録音って。

「順番に読めばいいのね?」

「うん、そう」

 えーっと。

「今、オリジナル曲を練習していましゅ……って、あ、緊張してかんじゃった。もう1回、言いなおすね。今、オリジナル曲を練習しています。うん、今度は言えた。次、言うよ?」

 優斗がにまにまと笑っている。

 もう、慣れないことしてるんだから、噛むくらいするでしょう。

「今週の土曜日、午後8時から初めて生配信に挑戦します」

 よし、今度はすんなり言えた。

 3つめ。

「SNSで質問募集します。よろしくね。……と、これでいい?」

「うん、ありがとう母さん、これで予告動画作って、ユーチョーブに動画アップしてと。SNSにも告知。質問来たら台本に反映させないと」

 台本。そうか、何も質問に私が答える必要はないのか。キャラクターへの質問であって、私への質問ではないわけだもの。

「じゃぁ、お母さん夕飯の支度するから」

「あー、うん」

 生返事が返ってきた。

 もう、声を録音したら私は用なしですか。まぁいいですけどね。いつまでもお母さんべったりな息子じゃ将来心配ですし……。

 しゅんっ。

 3歳のころの優斗を思い出しただけに、ちょっと寂しさが……。あの頃は、べったりだったな。父親を亡くしたばかりだから特に……か。

 化粧を落として着替えて急いで夕飯の準備。

 今日はカレーとコロッケ。コロッケは総菜。カレーはゴロゴロ大きな野菜入り。

 明日のお弁当はそのごろごろ野菜がおかずのうちの1品になる。冷食は、肉巻き野菜とかにしようかな。それから卵焼き。

 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、豚肉。玉ねぎは、みじん切り。

 油で色が変わるまで炒めるので、細かく切ったほうが火が通りやすいというのと、小さいころ優斗が玉ねぎ食べられなかったから分からないように細かくしたのでこの作り方。カレーのルーは、甘口と中辛を半分ずつ使う。甘口だと味気ない。中辛だと辛いという舌なので。

 隠し味に、はちみつを人さじと、コーヒーをスプーンに半分。

 ……あれ?よく考えると、うちのカレーの主役って大きなジャガイモ……。

 コロッケも、ジャガイモ……。

「ごめん、今日の夕飯、ほぼジャガイモだ!」

 まぁいいか。うん、まぁいい。

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