第15話
「小さなお子様連れのお客様には本館を利用していただくということで」
と、一人が発言したところでかちんと来る。
「もともとファミリー層向けに離れをということではなかったでしょうか。夜中に何度も泣いて起きる子供がいる立場でしたら、本館で隣室のことを気にしなくて済む離れの方が気が休まると思いますし、まだ本格的なキャンプなどには連れていけない幼い子供を持つファミリーこそ、気軽に自然の中で楽しんでいただけるという趣旨でければどうぞ、忘れてくだってかまいません。風情のある竹林の小道は散歩コースとして別に作り、離れまでは屋根のある渡り廊下でつなげて便利にしてほしいと思いました」
しぃーんと、部長の発言の時動揺、静まり返ってしまった。
ちょっと生意気に言い過ぎたか。
でも、なんていうの?ファミリー向けファミリー向けとか言いながら、子育てママへの配慮のない感じ、抱っこすればいいだの、文句があるなら本館使えばいいだろうみたいな感じが、ちょっとね。だったらファミリー向けなんて初めから言うな!とか思ってしまったので。
小さな子供を育てている母親は楽しんじゃいけないの?苦労する部分は母親。楽しむのは父親と子供?
「私には子供はいない。だから、このプロジェクトには、子供のいる社員をメンバーに入れたが……」
東御社長が会議室に集まっている社員に視線を向けた。
その視線の動きにつられて目を向ける。
ああ、抱っこすればいいとか本館を使えばいいとか言っていたのは子供がいる人?
「他にもいろいろ提案として上がっていた。天窓をつけて、寝転びながら星空が見られるようにする、虫取りができるように虫取りセットを貸し出す。ツリーハウスを作る……など。どれも子供が喜びそうな案で、流石子供がいるとアイデアが違うなぁと思っていたが……」
東御社長がふぅと小さく息を吐きだした。
うん、確かに、星空を見ながら寝るなんて子供はロマンを感じるかもしれない。
普段都会暮らしの子供は虫取りなんてしたことがなくて楽しいかもしれない。
ツリーハウスなんてまるで無人島に冒険に出たようにワクワクするかもしれない。
「どうも、これは父親目線での意見に偏っていたようだ。楽しむためのアイデアばかりだな……」
社員がしゅんっと視線を落とした。
「府網さんが提案してくださったロフトも同じような視点でしょう」
府網建築の社員が自信満々だった表情を曇らせた。
「車いすで不便な場所はベビーカーでも不便……か。勉強させてもらったよ。普段ベビーカーを使わない人間からすれば、歩ける子供なら歩かせればいい、抱っこ紐を持ち歩いて抱っこすればいい……と、簡単に考えすぎていたようだ」
東御社長の言葉に、社員たちも口を開く。
「そうですね。本館があるのだから、離れが使いにくいと思う人は本館に泊ってもらえばいいというのは我々のおごりだったのかもしれません」
「確かに。離れを希望して選んでもらったのに、雨だから離れに移動してもいいですよ?では、わざわざ泊まりに来た価値が半減してしまうでしょう。離れではない部屋なら他にも多くの宿泊施設があるのですから」
「ファミリー向けと銘打っているのに、子連れに不便な宿……これは、レビューでたたかれる案件でしたね」
「子育て経験がない、いや、子育て経験があったとしても、どれくらいの時間子供と、どういう立場で接していたかによって、感じることは違ったでしょう。車いすに自分が乗っていることをイメージすれば、確かに分かりやすい……」
「渡り廊下ですべての離れをつなぐのは現実的ではないが、一部の離れは渡り廊下でつなぎ、残りは切り離してはどうだろう」
「足元だけはぬかるまないように舗装したほうがよさそうだね」
と、話が進んでいると、茉莉さんが口を開いた。
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