第11話
やばい。目を合わせたら駄目だったんだ!
注意されていたのに、一瞬視線がかち合う。その瞬間、まるで蛆虫でも見るような目つきに社長の目が変わった。
あー、やらかした。やらかした。いや、あちらの条件反射でそういう顔になってしまっただけかもしれない。
ぶしつけにじろじろ見てしまったことは事実なんだし、嫌そうな顔されても仕方がない。
ここから、挽回しないと。色目は使ってませんよ。
指輪、指輪をちらつかせないと。
内心焦りでバクバクになっている間に、社長が席に座り、府網建築とうちと簡単に社長に挨拶したのち、プレゼンが始まった。
まずは府網建築だ。
専務の隣の男性が資料を配布し、さらにその隣の男性がプレゼンを始める。
プロジェクターでPC画面を写しながら資料と合わせて説明していく。その内容は、主に予算と工期。それから環境に配慮したなんとかだとか、会社の売りをいくつかだ。
建物に関しては、東御から細かく指示があったようで、それに合わせた建物でうちも府網建築さんも大きく違いはないようだ。
その中でどれだけ特徴を出せるかというと限界もあるだろう。予算や工期……結局そのあたりの勝負なのかな。だとすると……。若干うちが負けている。
部長の顔をちらりと見る。
こりゃ、5連敗かな……。
府網のプレゼンが終わり、次はうちだ。
部長が前に出るのと同時に、私は資料を配るために立ち上がった。
まずは社長にお渡しするべきと、すぐに社長の後ろに回った。
「後ろから失礼いたします。資料です」
と、失礼にならないように声をかけてから、テーブルに資料を……。
「こ、ここっ!」
ぐりんと、社長が振り返った。
まん丸に目を見開いて、驚いた顔で私を見ている。
うわー、何かやらかした?
いくら斜め後方からとはいえ、ちゃんと声をかけてから資料を差し出したし、そこまで驚かせることもないと思う。
近寄るなってこと?
もしかして、隣に座る秘書に渡すべきだったとか、なんかあった?
ぐるぐるとパニックになる脳みそを必死で働かせる。
「ここ……に置けばよろしいですか?」
ここって言ったのを思い出し、社長の右手側ではなく左手側に置きなおしてみる。
「あの、き、君は……」
社長のどもったような言葉遣いに心臓がバクバクする。怒りで声が上ずっている?
怖い。さっきも驚いた表情をまじかで見てしまった。つまり、視線を合わせてしまったのだ。
慌てて下を向いた者の、茉莉さんがせっかく目を合わせただけで不快になると教えてくれたのに。2度も目を合わせてしまった。
「二棲建築の、深山です」
指輪、指輪。指輪をしている手は、資料を持っていて隠れてる。
「深山……ああ、そう、ああ。ここでは……」
怒りを抑えているのか、声が若干震えている。怖くて顔は見えない。
「深山さん、資料配布手伝いますね」
茉莉さんが助け舟を出してくれた。
「ありがとうございます」
ほっ。助かった。
怖かった。
茉莉さんに資料配布を手伝ってもらい、私はPCをプロジェクターの機械につないで資料を開き、部長のプレゼンが始まるのを待つ。
府網建築は環境に配慮したということを強調していた。うちも十分環境に配慮してはいるが、プレゼンで協調するのは耐震性と耐用年数。つまり丈夫で長持ちという部分だ。
価格ではすでに負けている。
そりゃそうだ。うちは、通常通柱に使う120mmの柱を使用する計算がされている。
本来、平屋なので管柱に使う105mmのものでも十分だけれど、柱を見せる大壁にした場合、あまり細い柱が見えていたのでは見栄えが悪いだろうとの意味もある。もちろん、一番は丈夫で長持ちさせるためだ。
太い柱を使えばその分コストも増す。値段ではどうしても負けてしまうのだ。
一通りのプレゼンが終わり、席に戻る。
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