第3話

「じゃぁ、収益化とか考えずに、楽しんだら?上手く話せなくてもこんなに可愛いんだから、きっといいねしてもらえるよ」

 ふるふると、PCの中の天使が首を横に振っている。本当にかわいい。守ってあげたくなるような子だ。

「でも、僕……少しでも稼いでお母さんを楽にしてあげたいんだ」

「え?」

「これなら、アルバイトじゃないから校則違反でもないし……今、人気は歌が上手いVTuberで、曲も作ってみたんだけど、僕、歌えなくて。母さん歌が上手いでしょ?……母さんのためっていって、母さんに頼むのもダメだなって思ったんだけど、でも……」

 わ、私のため?

「優斗……?」

 優斗が、ぎゅっと両手の拳を握りしめている。

 ああ、これ。

 優斗が何かを我慢するときの仕草だ。

 私、また何かを息子に我慢させちゃうところだった。

 やっぱりいいよごめんって。笑って言う息子の顔が思い浮かぶ。

「か、母さんも、おしゃべりとかは下手くそだからその、自信ないけど、歌なら、ちょっとは上手いって褒められるから、歌なら、協力するよ」

「ほ、本当?」

 優斗が嬉しそうに顔を上げて、目を真ん丸にしている。PC画面のキャラクターも、同じような表情を見せた。

 すごい、なんで動きだけじゃなくて表情もシンクロするんだろう。

 機械音痴な私にはさっぱりわからない。というか、うちの子天才なんじゃないかな。

「よかった!母さんをイメージして作ったキャラだから、母さん以外の人だとイメージに合わないんだよね」

 ニコニコと嬉しそうな息子。

 え?この水色の髪の、優しそうな目元の天使のようなキャラクターが私をイメージ?

 いやいや、全然似てないんですけど。どう見ても、似てないんだけど。

 ああ、でも、優斗の優しそうな眼にはちょっと似てるかなぁ。

 うちの息子、天才な上に優しいとか。それに、実は眼鏡をはずすとイケメンなんです。ええ、もちろん親ばか目線ですけどね!

「じゃぁ、早速お願いします!配信は毎週土曜日の夜8時から9時固定で、えっと、歌は生じゃなくて録音、あと、しゃべることに困った時用の台本も用意するから!まずは歌、これ僕が作ったんだけど、覚えたら教えて。はい、母さんのスマホに入れといたから、聞いて覚えてね」

 ……。

 あれ?

 なんだか、すごく準備万端では?

 息子に、台本4冊と、スマホと歌の楽譜と、スケジュール表を渡された。

 ……うん、用意周到。息子って、こういう段取りも天才よね。

「はー、よかった実は、こそっと母さんのカラオケ録音して「歌ってみた」とか上げたり、母さんの日常の「おやすみ」とか「おはよう」とか声を録音してすでに動画作ってアップしてみたんだよね……。だから、この子の声はすでに母さん……で、登録者もそろそろ3万人……熱狂的ともいえるファンもすでに何人かいるんだよね」

 優斗が何かつぶやきながら、体につけていた物とか外した。

「頑張って母さんに旅行させてあげたいんだ!」

 キラキラと優斗が目を輝かせる。

「旅行?」

「あれ?なんか、初任給で親に旅行をプレゼントするとかって」

 優斗の頭をがしっと両手でつかんでわしゃわしゃする。

「何言ってんの!初任給じゃないでしょうが、それはまだもっと先でしょ!バイト代みたいなもんよ。バイト代は自分の好きなことに使えばいいの!全部、自分のために使えばいいんだからね?」

 わしゃわしゃわしゃ。

「ちょ、母さん僕は犬じゃないんだから、もふらないでって!」

 わしゃわしゃわしゃ。

「もふってなんかないわよ。あー、あんたも小学生のころまでは柔らかくて触り心地のいい髪の毛だったんだけど。もうすっかりハリのあるしっかりした髪の毛になっちゃった……あー、さわり心地がいまいち」

 わしゃわしゃ。

「もうっ、母さん……はぁー」

 諦めたように、優斗がため息をついた。

「彼氏でも作って彼氏にやればいいのに……」

 ふえ?

 か、か、か、彼氏を?

「何を言ってるの優斗!母さんに彼氏なんてできるわけないじゃない、っていうか、作るつもりもないし、あ、別に優斗がいるからとかでなく、単に恋愛とか全然興味ないし、そ、それに、あー、もうっ!」

 何を言い出すの!

 びっくりして心臓止まるかと思った。

 優斗の口から彼氏作ればなんて……あれ?もしかして、優斗に彼女が出来たりとかで……お母さんも作ればみたいな話?

 え?うそ、優斗に彼女?

 だって、オタクだよ?

 いや、二次元彼女だとか二次元嫁だとか二次元妹だとか言うタイプだよ?

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