幕間 ②
来訪者によって発展してきた神木町には
加えてこの町が広く認知されるに至ったのは僅か二十年程前でしかない。そのためどのホテルも築二十年を越えるものは無く、安ホテルであろうともそこまで古びた建物はまず無い。
立地条件が悪いため値段が安いホテル、この町に数多く在るその一室で、シャワーを浴びる一人の女がいた。
浴室から出ると、女はあちこちに裂け目が出来た作業服をダストボックスに丸めて放り入れ、バスローブを身に纏いベッドへと向かう。ベッドの上には白いTシャツと黒のジーンズ、そしてスポーツ用の下着が脱ぎ捨てられていた。
それらの衣服を畳んで女はベッドに横たわる。枕元にある携帯を手に取ると、ランプが点滅していた。着信かメールがあったことを表すサインだ。
携帯を開くと、そこには女にとって最愛の存在からのメールが届いていた。その文面から女を心配する気持ちと不安が読み取れる。
女が僅かに頬を緩めたその時だった。入口のドアがノックされる。女は携帯を置き、その顔に浮かぶ僅かな感情を消して部屋の入口へと向かった。
ドアを開けた先にいたのは全身を黒で統一した四十過ぎの男だ。男の顔には隠し切れない
「よ、よくやってくれたね。これでもう後一歩だ」
「……」
「わ、分かっている。約束は守る。君達と
女の変化の無い表情に男は早口でまくし立てる。だが冷ややかな女の目に遂に耐え切れなくなったように男は二、三歩後ろに下がった。その時、女が右腕を上げる。
「ひぃっ!?」
男がへたり込むのと女が腕を振るうのは同時だった。両腕で頭を抱え込んだ男はしばらくそのまま硬直していたものの、何も体に異常が無いことを
そこには小さな
「し、式神――!」
動揺する男と、その様を無表情のまま見つめる女。男は
「つけられた……! は、早くここから逃げるぞ! 私の仲間が用意した隠れ家がある!」
男は焦って足をもつれさせながら隣の部屋に戻る。女はやはり無表情のままドアを閉め、着替えと荷造りを始めた。
部屋を出る前に女は携帯を開き、そこに映し出された一枚の写真を見た。そこにあったのは、楽しそうに笑っている二人の姿。
そっと携帯を閉じて女は顔を上げる。その瞳には静かな決意が
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