第2章 ③鷹の目

叔父と叔母は、到着ゲートで、

「咲子Sakiko」

と書かれた小さなホワイトボードを掲げて、咲子を待っていてくれた。


紳士が、挨拶をして、咲子を叔母のところに促した。


そして、咲子は、叔母の言葉に唖然とした。

「さきちゃんを引率していただいてありがとうございます。長旅ご苦労様でした。」


「えっ!?」


紳士はニヤリとして、こう言った。

「ごめんね。咲ちゃん、黙っていて。君のお父さんに頼まれたんだよ。護衛をね。」


「どうして?どういうこと?」


「お年頃だからね。きみは。

ご両親の言うことを素直に聞けないから、そっと後ろで見張りながらついていくように、頼まれたんだよ。

そりゃあ、親なら誰だって心配するよ。」


「えっ、?じゃあ、飛行機の中で話していた、転勤でって話はうそ?」


「いや、それは、本当だよ。

君のお父さんとは、5年くらい前に、あるパーティーで知り合ってね。

時々食事に誘ってもらったりして、仲良くしてもらってるのさ。

わたしが、ここにいる君の叔父さんと、同じ企業で働いていることを知ったのがきっかけで、話が弾んで、それ以来の仲なんだ。


それで、今年アメリカミシガン州エイダの本社に転勤になった話をしたら、

それなら、咲ちゃんを留学させるチャンスだなって、なったんだよ。」


やられた!

いつもお母さんの売り言葉に買い言葉的な感じで、感情的に選んでしまうことの道筋は、実は父が計画してプロデュースしたものであることが多い。


悔しいほど、わたしのことを理解しているし、鷹の目を持っている人だ。

上から一望して、獲物を狙ってくる、空の上の王者のような父だ。


悔しい反面、咲子は、父親の盤上のチェスの駒として暴れさせてもらえることは、ある意味面白いし、何より安心が出来ると思っていた。


咲子は、この出来事で腹が決まった。

お父さんにしてやられた今回の渡米を、自分の人生の大きなステップにしよう。


こうして咲子のアメリカ生活がスタートした。


アメリカの田舎町で、楽しいハイスクールライフを送った。

田舎だけれど豊かな街で、人が優しかった。


留学に行く前は、ハラハラドキドキしていたが、数ヶ月もすれば、当たり前の日常になってしまうものだ。


叔父も叔母もとても良い人で、アクティブな人たちだったから、バケーションの度にショートトリップに連れて行ってもらった。


アメリカ合衆国は、その名の通り、50の州が集まって一つの国だ。

州は、日本の県とは随分違う。

州は、どちらかというと国に近い。

つまり、アメリカ合衆国という国は小さな国のような州が集まって出来た共和国みたいな感じだ。


だから、州によって、あらゆることが違う。法律も違う。

文化も違う。

人の考え方も、空気も色も違う。


すごく面白いと咲子は感じていた。

咲子は、新しいことが知りたい!

色々なことを調べて、現場に行ってみたい!と、好奇心の塊だ。

本やニュースペーパー、ゴシップニュースまで読み漁り、関心の幅を広げていった。


アメリカの都会に特に興味が出てきた。

ニューヨーク!

多種多様な人種が、夢を掴むためにやってくるその都市に、咲子は行ってみたくてたまらなくなった。


叔父と叔母は、どちらかというとリゾートでゆっくりする旅行が好きだったから、ニューヨークにバケーションで行くという発想は無かった。


咲子は、ハイスクールライフの最後のサマーバケーション、どうしてもニューヨークに行きたい!とお願いしてみた。


二人は、

「それは、私たちは、思いつかなかったわ。今まで。

咲ちゃんが言うなら、喜んで行くわよ。

久しぶりだわ。ニューヨーク。

ワクワクして来た。

マンハッタンで、思いっきり楽しみましょ。」


咲子は、初めてのニューヨークという都市への旅行に浮き足立った。

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