第19話 宣戦布告
※
文化祭まであと三日。クラスの作業を抜け、俺は部室にいた。
「もうすぐ文化祭だな!桐生少年!」
誰ですかあなたは。
いや容姿から察するに恐らく立花先輩だと思うが、その口調はどうしたのだろう。
「告白するじゃん!で?で?なんて言うの?」
ところで、高校生の男女同士では会話の内容が全然違う。
男子高校生は日々、「おっぱいおっぱいイエーイ」とか「ブラジャーって大胸筋矯正サポーターって言えばエロくないよな」とか、しょうもない話をしている。
それに対し女子高生は何かと恋バナが好きだ。これでもかと言うくらい好きだ。なんでそんなに好きなのか聞きたくなるくらい好きだ。
「先輩も女子だったんですね」
「お前、それセクハラだからな?」
あなたが日々俺らにしてるのも十分セクハラですよ。
今の世の中は色々敏感なんだから、気を付けないと。
「そーれーで!告白どうすんの!こ・く・は・く!」
「さあ、するかどうか知りません」
「はぁ?!なんだそれ!」
そんな事言われても……。
もちろん、梔子さんに告白して杉本から略奪したい気持ちが無くなったわけじゃない。だか凛のこともある。
「迷ってるんですよね…。色々ありすぎて」
「そうか悩んでるんだな?お姉さんに話してみな」
「間に合ってます」
この人には話しちゃいけない。俺の危機感知センサーがビンビン反応していた。
「んだと?!お前、人が親切心で悩みを聞いて笑い飛ばしてやろうと思ってんのに!」
「そうなりそうだったからです!」
やはり正しかったらしい。
ところで、俺は一つ聞きたいことがあった。
「先輩はどうして部室にいるんです?教室の作業は?」
「クロの野郎に『原稿の進みが遅いから部室でやってきてくれ』って……。クラスの委員も協力しやがった……!そんで桐生の方は……」
立花先輩は恐らく俺が何故部室にいるか聞こうとしたのだろう。だが途中で中断した……
「……お互い頑張ろうか」
「……そうですね」
……俺の前に置かれた原稿用紙を見て。
※
杉本風磨という人がいる。
野球部では一年生ながら抜群の運動神経を発揮しレギュラー入り。勉強は学年のトップ層らしい。顔も俺に比べれば劣るが別に悪いわけではなく、学年ではイケメン枠だろう。
………前に聞いた?いやいや待って欲しい。
杉本が梔子さんと付き合い始めて早二ヶ月。順風満帆という言葉が最もふさわしいだろう。
最近では仲が良いとは言わないまでも、話せる女友達ができたらしい。ストーカーじゃないから!本人から聞いたから!
そんな順風満帆な二人の関係に俺が入る余地なんて……
「アホかお前は。あと回想長い」
「酷い!」
俺と立花先輩は小説の執筆をサボ……中断し話していた。
結局、立花先輩に押し切られてしまった……。
「何うじうじしてんだ気持ち悪い。お前は見た目がいいだけのもやしなのか?」
「もうちょい優しい言い回しになりませんかね」
てか、見た目のいいもやしってなんだ。成長がいいってことか?
「どんなに女友達が朱里ちゃんに出来ようが、男
「二回言う必要ありますか?」
この人は俺の恋を応援してるのか阻止しようとしてるのかわからねぇ……。
「つまり何を言いたいかと言うとな?」
「つまり……?」
俺はゴクリと息を呑む。
「お前がその杉本ってやつより魅力的で、そしてカッコよくアプローチ出来ればいいんだ!」
ぐぅっっっきっっっつ!!!
「俺が勝ってるの顔しかないんですが」
「いやそこまで顔が残るのもすごいと思うぞ?」
「それほどでも」
「褒めてない」
立花先輩もツンデレだなーははは!
「お前の妄想やばいな」
「心の声読まないで?!」
その後も、なんらためにならない立花先輩の話を聞いていたが、様子を見に来たクロ先輩に、全く原稿を進めてなかった立花先輩が怒られるのはまた別の話。
※
文化祭まであと二日となった日のこと。
授業も完全に休みになり、一日中作業をする二日間。そんな中、俺は匠に声を掛けられ廊下へ出た。
「なんか問題があったのか?」
「いやそうじゃない。俺はただの顔繋ぎ。呼んだのは…」
俺は匠の視線で、俺を呼んだ本当の犯人を察する。
杉本風磨。
匠は「じゃ、俺は戻るわ!」と去っていく。
「ここじゃなんだから、場所変えないか?」
先に口を開いたのは杉本だった。
────場所は変わって屋上。
ラブコメだと、ここで杉本がクズ野郎ってのが定番だけど…。
「呼び出して悪いな。どうしても確認しておきたいことがあるんだ」
「確認したいこと?」
俺と杉本は今まで接点があまりないので、思い当たる節がないんだが…。
「思い当たらないって顔してるぞ」
「えっ」
「冗談だ」
……完全に弄ばれてる!
これが学力の差なのか……?!
「俺と桐生じゃない。桐生と朱里だ、思い当たる節があるだろ?」
「ごめん、多すぎてどれのことかわからねぇ」
思い当たる節が多すぎて困っちゃうなーははは!
てか、ちゃっかり名前で呼んでるし……。
「朱里と話すと、いくつも桐生の話を聞いた。『桐生くんはすごい』『桐生くんが私を変えてくれた』って」
「っ!」
そこで俺は気付いた。
デート中に他の男の話をするなど恋愛においてタブー!恋愛経験のない梔子さんはそんなことも知らずにタブーを踏みまくって……
「この際それはどうでもいい」
……いいのかよ。
「確認したいことってのは……」
杉本は俺に歩み寄るとすれ違いざまに一言。
「桐生。お前もしかして朱里こと好きなのか?」
俺が今まで凛と匠にしか話してこなかった気持ちを、まるで探偵かのように探り当て、俺に突き付けてきた。そして颯爽と屋上を去る。真偽を問う気はないのだろう。
だが杉本はこう言いたいのだ。
『梔子朱里は渡さない』
これは警告じゃない、宣戦布告だ。
それだったら、正面から────
『好きだよ明日人』
瞬間、俺の脳裏にスポッチャでの凛の顔が思い浮かぶ。
俺もちゃんと向き合わなければならない。梔子さんへの気持ち。凛への気持ち。
そのための舞台は用意されている。
告白祭。
そこでちゃんと俺の気持ちをはっきりさせる。
────様々な思いが交錯する文化祭が幕を開ける!
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