第17話 来たれ文化祭!
※
宮崎祭。
俺の通う県立高校、宮崎高校では毎年9月中旬から下旬にかけて文化祭が行われる。県内ではある程度知名度もあるお祭りで、毎年来場者は五万人程。
見所は高2の出店だ。高2からは理系と文系に分かれ理系クラスは毎年ユニークな出店をし、文系クラスは飲食店が多い。また、部活動もそれぞれ出店し、サッカー部だとボールを的に当てるアトラクションや、野球部では擬似バッティング、とその出店方法は様々だ。
そして先日、俺が立花先輩に勝手にエントリーされたのは宮崎祭の後に控える後夜祭。別名『告白祭』の告白コーナーだ。毎年数名が告白し、フラれたり付き合ったりと一番盛り上がるイベントだ。もちろん今更引く気はない。
しかし、厄介事は尽きてくれないようで……
「今年は我々文芸部も宮崎祭に出店します」
宮崎祭まであと三週間と迫った9月上旬、俺はクラスの手伝いもそこそこに、文芸部に顔を出していた。
また変なのが始まったよ……。
「何か案がある人!」
部員を椅子に座らせ、クロ先輩は指揮を取る。部員に文化祭参加の賛否を問わずしてクロ先輩は続ける。
すると一人、勢いよく手を挙げた。手の主は立花先輩。
「立花、どうぞ」
「メイド喫茶!もちろんメイドは男子!」
「却下ッッッ!」
立花先輩の案をクロ先輩が速攻で却下する。
先輩は「なんで〜!」と言っているが、むしろどうしてOKされると思ったと聞きたい。
「ここは文芸部らしいやつにした方がいいと思うんだ」
そう言ったのは下田先輩。いつもはドルヲタ全開だが、今日はいつになく真面目な雰囲気だ。これはいい案が……
「和装カフェ────どうだろうか?」
どうだろうか?じゃねぇ!メイド喫茶と何が違うんだ、同じようなもんじゃねーか!文芸部らしさどこにあんだよ!
そこでクロ先輩が「下田なぁ」と呟く、先輩!ズバッと言っちゃってください!
「それ、ありだな……!」
んーーーーーー?!なんでそうなるのーーー?!
立花先輩も「あり寄りのあり」とか言っているが、なし寄りのなしだと思います。
「梔子は何か案あるか?」
クロ先輩は梔子さんに問いかける。
梔子さんは一瞬反応に困るが、すぐに何かを思いついたらしい。
「え、えーと……その…しょ、小説を……書くというのはどうでしょうか……?」
部室内が静まりかえった。
これは……、
「「「「アリ」」」」
梔子さん以外の全員の声がハモった。
「いいじゃん文芸部らしいよ!ナイス朱里ちゃん!」
「そ、そそそうですか…!」
立花先輩に褒められて嬉しそうにする梔子さん。
すると下田先輩が言った。
「何か題材を決めて書くの?それとも自由に?」
「ば、万人受けするやつなら……なんでも……いいと思います」
小説かー……。
文章を書くのは小学校の読書感想文以来かもしれない。中学、高校じゃあ読書感想文なんてなかったからな。
「それじゃー明後日までに各自、作品のタイトルとあらすじを考えてくること」
今年の文芸部は小説を書くことで決定した。
※
小説を執筆かー……。
翌日の放課後、俺は教室の自分の椅子に座り考えていた。
いざやろうって思うと案外思いつかないものだなぁ…。
うーん、と俺は仰け反る。
「何してるのー?」
「うわっ?!」
ひょいと俺の視界に凛が入り込み、俺は驚きの声を上げた。
てか、一瞬だけど凛の髪が顔を掠めた。いい匂いでした。
「で、何してるの?」
「あぁ、部活でかくかくしかじかあってな」
「漫画じゃないんだから伝わるわけないでしょ!」
それもそうか。
俺は改めて凛に事の成り行きを伝える。
「なるほどねぇ。何を書くか決めてるの?」
「決まってないから悩んでるんだ」
「だよねー。じゃあ聞き方変えるね、どんなの書きたいの?」
「そりゃあ読んだ人が損しないような文章…かな」
「お、小説家みたいなこと言うじゃん!」
凛は俺の悩みを真摯に考えてくれている。
一瞬胸の奥がチクリとしたのはなんでだろう……。
すると凛が「じゃあさ…」と言う。
「今から遊びに行かない?何かいい案浮かぶかもよ?」
凛の唐突の提案に「え?」という言葉を俺は発することが出来ず硬直するが、すぐに考えを改める。
振った女の子と遊びに行く。匠の想いがある手前、乗り気にはなりにくいが普段感じない感覚で刺激を受けることはいいことなんじゃないかと思う。
凛を利用しているようで少し後ろめたさがあるが、そもそも凛から提案してきたのだから良いだろう。
「……いいよ、行こう」
俺は少し考えてから返事をした。
※
『ストライクーーー!!!』
画面に大きく映し出されるストライクの文字。
「やったーーー!!!」
ストライクをきめ、ぴょんぴょん跳ねる凛。
これで本日三本目のストライク。凛のなかなかのセンスを感じる。
続いて俺の番。
「おりゃっ!」
ゴロロロロ……ガンッ!
俺の投げたボールは迷うことなくガーターへ。凛に比べ俺にはボウリングのセンスがないようだ。その証拠にスコアが芳しくない。
「明日人下手じゃん!ちょっと教えてあげる」
と言って、凛は俺が二投目のボールを持つと「はい構えて」と俺の投球フォームからチェックを入れる。
「ここ、もっと締めて。そうそう」
凛は自分のフォームを見比べるためか俺に密着する。
やばい、めっちゃドキドキする。
「はいじゃあ、投げてみて」
「お、おう」
サービスタイムは終了して、俺の第二投。今度はガーターには入らず六ピンほど倒した。
「やるじゃん!」
凛は自分の手のひらを掲げて俺に見せる。
俺はそれに応じるように、
「いぇい!」
パンっ!
とハイタッチした。
それから俺と凛はテニスやアーチェリーをして、ゲーセンでクレーンゲームをして、プリクラを撮って……
…もし、凛が彼女なら、こんな風に楽しいのかな……。
俺の脳裏によぎる"もしも"の可能性。
きっと毎日が楽しいだろう。退屈しないだろう。あっという間だろう。
でもそこに匠の居場所は……?
俺と凛が付き合ったなら、匠は自ら離れていくだろう。俺と凛がいくら否定しようと、彼は「自分は邪魔者だ」と判断してしまう。
「ねぇ、明日人」
ふいに凛が俺に話しかける。
「もしさ、私達が恋人なら、こんなに楽しいのかな?」
「っ!……そうかもな」
否定なんてできない。
思いやりや親切心ではなく、俺は純粋に楽しかった。
「でも俺は凛とは……」
「付き合えない、でしょ?」
「あ、あぁ…」
凛は真っ直ぐ俺を見つめる。その瞳に吸い込まれるように、その目から離せない。まるで、梔子さんを見ている時のように。
胸が高ぶる。
「前に、匠に告られた」
「え…?」
凛はこちらに背を向け呟く。
瞬間、俺の胸を何かが貫くように冷たい風が流れ去る。何か…取り返しがつかないことになってしまうような、そんな悪寒。
確かにそんな予感はしていた。凛が俺に振られた後の匠と凛の関係は、明らかに変わっていた。……匠、言ったのか……。
「匠には、まだ待ってて、って言ってあるの」
何故か息苦しい。胸が締め付けられる。その続きを聞きたくない。その続きを聞いてしまったら……俺は……
「見苦しいし、重たいって思われるかもしれない」
俺は────凛のことを────
「好きだよ明日人」
凛からの二度目の告白は、俺を簡単には放してはくれない。
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