第13話 夏が、来る

 ※

 期末テスト。

 この宮崎高校では、年に5回定期テストがある。それぞれ期末テストの後には補習があり、成績不振者を対象とした授業がある。


 


 恋愛において一つの分岐点となるはずの夏休みに、補習なんかで時間を取られている場合じゃない。

 だからこそ俺は、凛や匠の血も涙もない。……もはや人情すらない特訓にすら耐えてきた。


「それではテストを配布する」


 今日の一限目は国語。二限が社会。

 明日は一限目が数学。二限が理科。三限が英語だ。

 俺が一番苦手な英語を最終日の最後に持ってくるとは…神様も気前がいい。


 瞬間、チャイムが鳴り響いた────




 ────残すは英語のみ。

 ここまでの4教科。勉強の成果もあり、点数を大きく上げた自信がある。


 ぎゃるるるるるるる!!!!


 ……お腹痛い。

 畜生、ここに来てそんなことで邪魔されるのかよ!

 俺にそんなに英語を取らせたくないのか?!

 もう少し耐えてくれ、俺のお腹!後一時間の辛抱だ。


「ではテストを配布する」


 早く!早く回して!

 チャイム早く鳴れや!


「桐生……目が血走っているぞ……」

「お、お構いなく!」


 腹が痛いんだよ!しょうがないだろ!

 早く……!頼む……!


「それでは、始めッ!」


 同時にチャイムが鳴った。



 ※

 一学期の終業式も過ぎ、皆、夏の暑さの中、部活動に精を出す中。


「えー、出席取るぞー。……えっと、桐生はサボりか」

「います!います!………はぁ、はぁ」


 俺はギリギリで教室に滑り込んだ。


「今度からもっと早く来いよ」

「……はい…はぁ」


 遅刻ギリギリだったことを先生に注意され、俺は教室を見渡し、一つの席を見つける。

 教室内からは「桐生くんも補習なら、悪くないかも」などと言った女子の声が聞こえるが、俺が行く席は一つだ。


「隣、いい?」

「……桐生くん。私はいいですけど……」


 梔子さんは、他の女子を気にしているが、俺にそんなことは関係ない。

 俺は強引に梔子さんの隣の席に座る。


「よし、じゃあ授業を始める」


 英語教師の授業を聞き流しながら、


 これもデートみたいで、いいな。


 なんて考える。

 そんな俺の、夏が始まる!



 ※

 7月下旬。

 文芸部といえど、夏の間も活動はある。


「あちぃ……」

「先輩はもう淑女として生きるのをやめたんですか?」

「おい桐生、随分な言いようだなおい」


 パンツ丸見えの状態で言われても……。


「ははーん、さては私のパンツに興奮したな、変態め!」

「どうでしょうか」


 慣れとは怖いもので、今更、立花先輩がパンツを見せていようが気にしなくなってしまった。そろそろ生乳くらい見せてもらいたいものだ。


「ふっ、隠さなくてもいいんだ。勃起するのは恥ずかしいことじゃない」

「あんたは何を言ってるんだ」

「…あれ、おかしいな、私の目には勃っているように見えないんだが」

「事実勃ってないですからね」


 そもそも、本来パンツは普段は隠されているから価値があるのであって、常に丸出しならば希少価値を感じられないのだ。ようするにサザ◯さんのワカ◯ちゃんと同じ。


「お前……まさか…」


 立花先輩は、部室の隅にあるダンボールからとある本を取り出し、俺に見せつける。

 表紙は男と男が愛し合っている構図の。


「こっち?」

「ちげーよ」


 なんてもん部室においてあるんだ。処分しろや。

 しかし、俺のパンツに関する事件は、これで終わりじゃなかった。



 

 ────翌週。7月もあと2日に迫った夏の日。

 この日も文芸部がある。

 俺は集合時間より早めに着いてしまったので部室で休んでいたのだが。


「なん……だと……!」


 俺は床に落ちている布を見つけ、硬直していた。

 形状からしてハンカチやシュシュという線は薄い。模様は水玉。もう決まりだ、これはPANTS!


「ふ、ふーん!」


 誰もいない部室で一人芝居の強がりをする俺。

 パンツね。パンツよパンツ。あれだね、パンツだね。今更パンツが落ちてたって気にしないさ、だってパンツだもん。

 俺は出来る男。誰もが憧れるイケメン。ならば、今更パンツごときで狼狽えたりしない。

 そっとパンツに手を伸ばす。そして、指の先がちゃんとパンツに触れると同時、


「おいーすっ!」


 クロ先輩と下田先輩が入ってきた────


「お、先に来てたのか桐生。どうした?そんな直立で」

「いえ別に!」

「お、おうそうか。大丈夫か?なんか汗かいてない?』

「暑いですよねこの部室!」

「そ、そうだな……?」


 俺とクロ先輩がそんな会話をしている間に下田先輩は、黙々と準備を始め、本日もヲタ活に励むようだ。

 だが、そんなことより問題発生だ。


 パンツを握ってしまった。


 どうしよう。

 狼狽えるな俺!まだバレてない。そこら辺に適当に放置しておけば、誰か気付くだろう。そしたら俺も初めて見たようなリアクションを取ればいいんだ。


「ん?桐生、後ろに何隠してるんだ?」

「いえ何も」

「隠すようなものなのか?」


 パンツですけど。

 出されて困るのはあんただよ!俺も困るけど!

 いや待て、ここで一旦原点回帰しよう。


 このパンツは誰のだ?


 落ちていたのは文芸部の部室。

 そうすると、この部室に入る人物。一般生徒がここに入るとは考えづらい。

 ならば容疑者は文芸部の俺以外の部員。そしてこのパンツが女物であることから犯人は、立花先輩か梔子さんに絞られる。

 そして立花先輩がこんな普通のパンツを履くとは考えづらい。つまり……


「あ……」


 このパンツの持ち主がわかった瞬間、俺は驚きのあまりパンツを落としてしまった……!


「おい桐生、なんか落ちた……ぞ?」


 落ちたパンツをクロ先輩が拾い上げ、二つ穴に手を通し広げてみる。


「これは、パンツか」


 それ以外なんだと。

 てか、すごい冷静?!


「ちは〜」

「……こ、こんにちは……」


 ビヨーンとクロ先輩が女性モノのパンツを広げているタイミングで、立花先輩と梔子さんが部室に入ってきた。そしてクロ先輩を見て固まる。


「私のパンツに何しとんじゃー!」


 あんたのかよ。

 立花先輩のアッパーブローがクロ先輩をぶっ飛ばした。

 よかった……。


 これからしばらく、クロ先輩はパンツ王子と部活内で言われるようになった。

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