第12話 『今まで』より『これから』

 ※


「お前らに話がある」

「「?」」


 匠と凛を教室から文芸部部室に呼び出した俺。昨日の今日で急だが、今日しかないのだ。匠と凛の予定が奇跡的に空いており、かつ文芸部がない今日。


「話ってなんだ明日人?」


 匠が俺に声を掛ける。

 俺は「あぁ、今する」と返事を返す。


「まず凛」

「え、私から?!……いや聞くけどさー……」


 気まづそうな凛は目を泳がせる。だがそんなことは関係ない。

 まず俺は凛に、


「ごめん!」


 背筋を曲げ、凛へ謝った。

 この謝罪は凛の告白を断ったことに対する謝罪ではなく、


「お前に好きと言って貰えて本当に嬉しい!お前は俺に匹敵するくらい顔が良いし、性格も!」

「顔は残るんだ……」


 凛が変なツッコミをしてくるが、今はスルーだ。


「でもごめん!俺はもう梔子さんを好きで、脈が薄いからといって簡単には乗り換えられないんだ。自分でももっと建設的になれればと思う。それでも凛と付き合うことは出来ない。ごめん」

「……うん、わかった。言ってくれてありがとう」


 凛は満足気に頷く。

 続いて、


「匠!」

「お、おう…?」


 匠は俺に何を言われるのか不安なのか、せわしない。


「お前のおかげもあって、今ちゃんと凛に伝えられた。ありがとう」

「え、あ、おう…」


 思っていたことと違ったのか、少し困惑したような表情をする匠。

 瞬間、俺は思いっきり息を吸い込んだ。


「しかーし!俺を殴ったことに関しては許せない!」

「えぇー殴った?!」


 事情を知らない凛が驚きの声を上げる。


「俺のこの顔に治らない傷が出来たらどうするんだ!そんでもって他にもっと方法はあっただろ!てか、殴る必要ないだろ!」

「そ、そうだな……。その件は大変申し訳なく……」

「俺は今からお前を殴る」

「え?」


 俺の発言に匠が素っ頓狂な声を上げる。

 しかしこれは正当な権利だ。


「いっっっくぞおおおお!!!」


 俺は匠に向かって拳を振り上げた────



 ※

 俺が匠と凛と話し合ってから一週間後。


「よかったな、仲直りできて」

「な、なんですかいきなり!」


 部室でまた二人きりになった俺と立花先輩。

 不意に立花先輩に話し掛けられた。返事をすると、立花先輩は俺にスマホを向け、


『俺はもう梔子さんを好きで、脈が薄いからといって簡単には乗り換えられないんだ。自分でももっと建設的になれればと思う。それでも凛と付き合うことは出来ない』

「だぁぁぁぁぁぁあ?!?!?!」


 スマホのマイクからは俺の声。

 つ、つまり……!


「聞いてたんですか?!」

「たまたまだ。タマタマじゃないぞ?」

「安直な下ネタやめてください」

「いやな、私がああ言ったらお前はこんな感じの行動とるだろうなって思ってな?サッカー部が近々で空いてたのはその日だけだし、うちの部活無かったし。考えるまでもないよな!」


ゲラゲラと笑う立花先輩に、俺はボソッと呟いた。


「その用意周到さ、もっと使い道あるでしょ……」


「なんだとクソチェリーがぁぁぁぁぁあ!!!」




 ※

 あっという間に季節は巡り、六月の末。

 俺はゴールデンウィークを含め、梔子さんと距離を詰めることができなかった。

 理由は二つある。

 一つは、普通に梔子さんが本に夢中で話しかけづらいこと。

 二つ目は、凛からの告白をしっかりと断ったとはいえ、梔子さんに夢中になるのは、凛の気持ちを蔑ろにしているようで気が引けるから。

 しかし、俺には今、それ以上にやらなければいけないことがある。


「おい、凛、匠」


 俺はいつになく真剣な声でシャーペンを持ち、二人に向ける。



「今度の期末テスト。俺はお前らに勝つ!」



「「……は?」」


 そう、凛と匠は意外にも優秀で、150人いる学年で、8位と17位というトップ層だ。

 そこで俺!切実剛健、神顔面偏差を持つ俺の順位は、


「明日人、この前のテスト何位だったの?」

「………130位」


 どうもバカです。

 凛の問いに俺は答える。すると二人は必死に笑いを堪える。畜生………!

 そう、切実剛健、神顔面偏差を持つ俺。しかし、勉強だけはできないのだ。しかし、全体の点数が低いわけじゃない。大体の教科は平均以上なのだ。しかし、


「英語ひっど……27点って……」


 英語だけができない。

 そもそも、日本に住むんだから英語なんていらねぇだろ!英語できなくても生きていけるわ!

 英語できる奴は日本人じゃねぇよ!


「英語がとにかく足を引っ張ってて……」


 うちの高校は普通にこの地域一帯では偏差値が高い。そのため、入学する人の学力もまあまあ高い。

 そんな中、英語で赤点ギリギリをとってしまえば、この順位は当たり前と言えよう。


「そこでだな……英語を抜きにして、総合点で勝負。……どうだろうか?」

「「どうだろうか?……じゃない!!!」」


 え、えぇ……。


「それ以前に、他の教科でも勝つ自信あるよ……私」

「え」

「俺もだ」

「え」


 ならば仕方ない。

 この際勝負はなかったことにしよう。


「よし、勝負はなかったことにしてやる」

「どのツラ下げて言ってるんだ」

「その代わり」

「「その代わり?」」


 俺は意を決した一言を。

 今後の人生で俺に大きな支障となるかもしれない一言を。

 願わくば、成績を上げるため────



「俺に勉強を教えてください!」



 秘伝の奥義、『DO・GE・ZA』が炸裂した。

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