第11話 やっぱこの人最強だと思う

 ※

 凛の告白に対する返事をしたその翌日。

 俺達は昼食を取ることにした。

 そもそも告白の件が表沙汰になっていないので、いきなり俺達が険悪になれば、あらぬ詮索をされかねない。

 もちろんその食事の場は────


「「「………」」」


 ────最悪だった。

 俺から凛に話しかけるのは気まずいし、匠も同じく。

 また、昨日俺とガチ喧嘩した手前、俺に話を振りづらいだろう匠。匠は凛にも話しかけないでいる。あの後、凛に声を掛けに行ったはずなのだが、何かあったのだろうか。

 そして凛は、フラれた手前俺に話を振りづらく、何かあったらしい匠にも声を掛けづらい。


 ………地獄かここは。


 二人が黙々とお弁当を食べ進めるので、俺も変な意地を張って黙々と食べる。

 もう一度言う、地獄か。

 その元凶たる俺が言うのもなんなんだが………。


「「ごちそうさま」」

「え、ちょ……!」


 いつのまにかお弁当を空にした二人はそれぞれ別方向へ。

 やっぱなんかあったに違いない。


 でももう一回だけ言わせてくれ。



「……なんだこの地獄……」


 誰にも聞こえないだろう声で、俺はボソッと呟いた。



 ※

 放課後、俺は文芸部部室に来ていた。

 交友関係の広そうな立花先輩に相談してみることにしたのだ。このぎこちない関係をどうにか修復出来ないものかと……



「仲良しな人との仲直りの仕方?セックスだろ」



 あんたに聞いた俺がバカだったよ。

 この人は頭の中に男とエッチなことしか溜まってないのか?


「いいか?全てはコミュニケーションだ。言葉でコミュニケーションをするか、体でコミュニケーションをするか。つまりコミュニケーションをする媒介が違うだけだ」

「つまり?」

「セックスしろ」


 ダメだこの人。

 頭の中が真っピンク。

 その時、ドバンッ!と部室の扉が開け放たれた。



「夏だ!合宿だ!」



 そう言い放って入ってきたのはクロ先輩。

 クロ先輩が言ったことに、俺と立花先輩は、


「だからな?やっぱ一番簡単なコミュニケーションはセックスなんだ。気持ち良くなれるかつコミュニケーションも取れる。一石二鳥だろ?」

「あれ、無視?」←クロ先輩。

「そう考えると……。でもやっぱりそういうのって好き同士がやるもんでしょ?」

「あ、あのー……すいません」←クロ。

「出たよ童貞思考!固定観念を捨てろ。自制心を捨てろ。ヤリチンになれ」

「立花は何を言っているんだ」←略。

「「うるさいぞ(ですよ)」」

「はい」


 クロ先輩は大人しくなった。

 で、結局────


「「「「合宿????」」」」


 その後、下田先輩と梔子さんが部室にやってきて、俺達はクロ先輩に説明を受けた。


「そう!我々文芸部にも、この学校のアイドル的存在たる桐生くんが入部したということで、ここは部活らしく合宿でもしようじゃないかぁぁぁあ!!!」


 改めて言われると照れるな。

 とはいえ、凛を振った上に匠とも気まづい状態なので、これを解決しない事には乗り気にはなれないんだが……


「ただみんな、一つ問題がある」

「なにが?」


 合宿に乗り気の立花先輩は、ガンガンと話を進める。

 なんだろう……旅費とか合宿内容か……?



「問題は、海か山か、だ!」



 瞬間、部室内を静寂が包む。

 海か山。それは古来から争い、協議され、未だ答えが出ていない究極の二択。………だと思う。

 そしてその一瞬だけ、俺の中から迷いが消えた。


「海」

「山」



 俺と立花先輩で意見がわれた。あとの二人はどっちでもいいらしい。


「おいおい後輩。海だって?そんな欲望に塗れた願望叶えるかよ!」

「先輩先輩。海に行けば、沢山の男からナンパされますよ」

「おいクロ、海だ。海にするぞ!」


 あ、ちょろーい。



 ※


「お先です」

「わ、私も…先に……」


 部活の話し合いが終わり、解散することに。

 俺もせっせと帰る支度をしていたところ、


「なあ、桐生」


 同じく帰り支度をしていた立花先輩に話し掛けられた。


「なんですか?」

「お前の悩み、そう簡単に解決出来るようなもんじゃないことはわかってる」


 さっきの話の続きか。……だからってセックスしろってのは無茶なんじゃ……。

 立花先輩は「だからな…」と顔をこちらには向けず、表情一つも変えずに言った。


「解決するためには、お前のそのわだかまりってのを吐き出せばいいんじゃねーの?」


 スクールバッグを閉じ、立花先輩は腕を通す。

 わだかまりを吐き出す……。


「じゃあお先に。うだうだしてんじゃねぇ童貞」


 吐き捨てるように俺に向けたその言葉。

 きっと立花先輩なりのエールのつもりなんだろう。

 俺も少し時間を空けてから、部室を後にした────



 ────翌日のホームルーム後。

 各々が「じゃあな」や「バイバイ」と言いながら教室を後にしていく中、俺は二人に集まってもらった。

 そして、



「匠、凛。お前らに話がある」

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