第8話 初遊び

 ※

 ゴールデンウィーク。

 しかしこれは正式名称ではないらしく、NHKでは『大型連休』と称されるらしい。

 新学期からしばらくが経ち、クラスにも慣れたこの頃は、世のリア充が盛り上がる。


「朱里ちゃーん!こっちこっち!」


 かくいう俺こと、桐生明日人もそのリア充の一員である。

 ゴールデンウィーク前、遊びに行く計画を立てていた俺達は、実行に移した。


「…よ、よろしくお願いします……!!」


 LINEのグループで話していたところ、凛が梔子さんも誘おうと言い出し、梔子さんを誘ったところ、なんと行けるとの返事が。


「朱里ちゃん服かわいい!」

「そ、そうですか…?」


 確かに可愛い。

 白を基調とした服により、梔子さんの清楚さが際立たされ……あ、危ない。これ以上言っていたらただの変態だ。


 ここで梔子さんとぐっと距離を詰めるんだ────



 ※


「は?何も無かった?」


 ゴールデンウィークも折り返しの頃、文芸部部室にて、俺とクロ先輩が立花先輩に呼び出された。

 正確には、梔子さんと下田先輩は旅行で来られなかった。


「もう一度聞くぞ後輩。君は自ら惚れた女である梔子朱里と遊園地に行くことに成功。そして関係が────」

「全く進みませんでした先輩」

「ふざけてんじゃねぇぇぇぞ後輩いいいいい!!!」


 クロ先輩は声を荒らげた。

 そんなことを言われても、事実なんの進展もなかったのだ。

 当然だが、肝試しはみんなで入ったし、ジェットコースターも男子と女子で分かれて座った。

 思いのほか空いていたということもあり、並ぶ時間も微々たるもので、二人きりで話す時間など無に等しかった。


「遊園地……ふふっ、いいわねぇ……。私が家で一人、寂しい思いをしているというのに……後輩という分際である桐生は遊園地かぁ……ふふふ……」


 キャラ変!

 ギャップ萌えとかそういうレベルじゃない。

 部室の扉の寄りかかりながら言う立花先輩。漂う空気がもはや陰の者。不穏な空気とダークオーラを纏っている。


「元カレはどうだったんで……」


 あ、やべ。地雷踏んだわ。


「メールで散々口説いておきながら、『よりを戻す気はない』とか言ってきやがった……。ふふふ…そうよ、私は単純な女。簡単に惑わされるのよ……」

「「うっわ……」」


 俺もクロ先輩もドン引きだ。

 元カレもどうかと思うが、それ以上にこの落ち込みようは……。


「浮気されてもしょうがないってか?!」


 だからキャラ変!


「男ってのはみんなそうだ!優しい言葉を掛けりゃいいと思っていやがる!そんな言葉になびく女がいるもんか!」


 そんなことを言いながらも、浮気男にホイホイとついて行こうとしたのは、どこの女なのだろう。


「全ての男子にちんこがEDになる呪いを掛けてやる!」

「やめてぇ!」


 ちなみに、EDとは、『性交時に十分な勃起が得られないため、あるいは十分な勃起が維持できないため、満足な性交が行えない状態』のことを言う。詳しく知りたい人は、自己責任で調べて欲しい。


「あぁもうやだ!クロ使って呼び出して来たのがお前だけなんて……」

「おい」

「しかも遊園地……ふふふ。さぞ楽しかったでしょうよ。昼間も夜も」

「いやなんもなかったっすよ」


「お前に掛けたEDの呪いは解いておいた!」


 この人、どこまで最低なのだろう…。

 すると立花先輩が「ところでさ」と言ってきた。


「桐生は朱里ちゃんと付き合いたいの?それとも、ただ近付きたいだけ?」

「なんですかいきなり」

「いいから答えろよ」


 珍しく……というか、初めての立花先輩のシリアストーンに俺は少し緊張する。こういう話もできたんだ立花先輩。認識を改めないとな。

 俺が、梔子さんとどうなりたいか……。


「まずは近づく所から。それでゆくゆくは付き合いたいと思ってます」

「ふーん」


 あれ?なんか思ってた反応と違うな…。

 もっと何か言われると思ってたのに…。


「いいか桐生。恋愛は惚れたら負け戦だ。やるならとことんやれよ」

「…は、はい!ちなみに、立花先輩から見て、梔子さんは俺に打ち解けてると思いますか?」

「あ?んなわけねーだろ」


 ですよね。

 きっとまだ、スタートラインに立っただけなんだ。

 そう、これから……


「ま、私は私が幸せになれればそれでいいからな!お前の応援なんてしてる暇はない!」

「俺の感心を返してください」



 ※

 というわけで、ゴールデンウィークはあっという間に終わり、日常が戻ってきた。

 久しぶりに会うクラスメイトに挨拶し、気付けばもう放課後。


「明日人は今日も部活?」

「おう」

「大変だねぇ、ね、文芸部って具体的になにやってんの?」

「なに…やってんだろうな……」


 凛にそう問われ、そっぽを向く俺。

 文芸部の現状を、入部する前の俺に教えてやりたい。


「大丈夫なのそれ?!ねぇ、ちょっと見に行ってもいい?」

「え……」


 凛の唐突の申し出に俺は驚く。

 見せられるか?文芸部のあの惨状を。もちろん否だ。

 だがここで断れば、何かあるのではないかと思われる。ならば……


「……一緒に行くか。その前に俺トイレに行く」


 俺は凛と一度別れ教室を出る。その瞬間猛スピードで走り出し部室に到着する。そしてドアを開け、既に中にいた人に向けて、


「校門前で男子校の生徒達がたむろってたなぁ、イケメンばっかだったなあ!」

「私今日の部活休む!」


 よし、まずは一人排除。


「そーいえば窓からたくさんのロケバスが見えたな!すごい沢山人いたな!」

「もしかして小坂 菜緒こさかなちゃんのドラマかな!僕も今日の部活休む!」


 よし、二人目も排除……。

 あとはクロ先輩と梔子さんだが、いる分にはなんの問題もない面子だ。

 俺は部室を出て、すぐさま教室に戻る。


「はぁ…はぁ…はぁ…!」

「え、え?どこのトイレまで行ってきたの?!」

「いや、ちょっと軽いランニングを……はぁ…」

「軽くないよね?!…じゃあ行こ」

「……お、おう」


 こうして、凛の文芸部訪問が唐突に訪れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る