第6話 一進一退の一退
※
「はぁぁぁぁぁぁ!!!よっよっよっ!」
ダンスに気合いの入った声が響く文芸部の部室。
とはいえ、文芸部とは名ばかりで、今のところヤバい人達しかいない。
部室の扉を開けてすぐにあるテーブルを挟むように俺の向かいに腰掛ける梔子さん。
「…それで……なんで桐生くんがここに……?」
「彼は今日付で文芸部に入部したんだ」
俺の代わりにクロ先輩が説明する。
…もう退部したいんですけど。
「そうなんですか……よろしくお願いします桐生くん…」
「あ、うん、よろしく」
梔子さんに入ると言ってしまった手前、もうこちらに拒否権はないんじゃないだろうか。
元々小説は読む方なので、文芸部自体に入るのは苦ではない。……部員を除けば。
「というわけで、これから桐生くんの入部祝いを兼ねてファミレスにでも行こうかと思うんだけど。来るか?」
「……そうですね……いきます…」
俺は心の中でガッツポーズを決める。
「その後はホテルへ」
「行きませんよ」
なんで立花先輩は話をシモの方へと向かわせようとするのか。
誰か誠実な人よ、彼女のカレシになってあげてください。
※
「それではぁぁぁあ!!!桐生明日人くんの入部と、今年の文芸部の活動促進を祈願してぇぇぇぇえ!!!乾ぱぁぁぁぁぁいぃぃ!!!」
「お客様、店内ではお静かにお願いします」
「はい」
クロ先輩は店員に注意されしゅんとする。
いや注意されて当たり前だよ?なに不当な権力に屈したみたいな雰囲気だしてるんですか。
「はい、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
やってきたサイゼリアで、俺たちは頼んだドリンクバーでグラスに注いだジュースをグイッと一息に飲みほす。
「いやーそれにしても桐生くんが入ってくれるとはね!」
「そこまで大したことじゃ…」
「いやいや、大したことだよ。我々文芸部にとっては大きな戦力だ」
なんの戦力だろう。
すると、梔子さんは「私……ドリンク取りにいきます…」といって席をたつ。
「これで我が部活は安泰だ」
「やりました部長!お祝いを兼ねて今度日向坂の握手会行きませんか?!」
「いや握手会行くなんて許さないぞ!」
下田先輩がクロ先輩を誘うと、それを遮るように立花先輩が立ち上がった。
「握手会なんていう所に行く男なんてロクな奴がいない!」
「な、なんてこと言うんだ?!」
立花先輩の発言に驚きの声を上げる下田先輩。しかし、立花先輩はそんなことお構い無しに進める。
「あんな多額を払って、数秒できる握手よりも、無料でヤれる私を優先しなかったあの男を許さない!」
「私怨じゃないですか。それと先輩達関係ない…」
「そうだよ私怨だよ!でもそれって悪いことか?!」
「悪いわ!」
この人凄い歪んでるなぁ……。
「それじゃあ桐生くん握手会行かない?」
「え?俺っすか」
「よし行ってこい!」
さっきまでの私怨はどこに行った。
さっきと同じテンションで止めろや。
「いえ俺はアイドルに興味無いんで…」
「もしかしてお前ホモなの?」
「なんでそうなる?!」
やべぇ、立花先輩の思考回路が訳分からん。
するとクロ先輩が何気なくボソッと、
「もしかして、好きな人がいるとか?」
「!」
「はい当たり!!」
「俺はいるなんて一言も……」
「そういうこと言う奴は大抵いるんだよ」
ぐっ……。こんな時だけ察しがいい…。
すると立花先輩がそっと俺に耳打ちした。
「もしかして、朱里ちゃん?」
「〜〜〜っっっ!」
梔子さんがドリンクバーを取りに行っていてよかった…。
もし聞かれてたりしたら……想像したくもない。
「まあいいんじゃない。やるだけやってみれば」
「数々の修羅場を潜り抜けているだけあって、言葉に重みがありますね」
「よーし、入部記念に脱童貞してみるかー?」
「遠慮しときます!」
何故か俺はこの後、立花先輩にボコボコにされた。
※
「────大変だね、文芸部」
「本当にな」
「でも、明日人がここまで積極的になるなんてな」
次の日の放課後。
俺は、凛と匠と共に昼食を取っていた。
「積極的と言われればそうだが。俺は元々文学作品好きだしな」
「そうだった、意外だよねー。で?調子はどうなの?」
「調子?」
「朱里ちゃんとはちゃんと進んでるの?」
「ぐっ……」
進んだか進んでないで言えば、明らかに初対面の時よりかは進んでいる……と思う。進んでるよな?
でも、まだ俺には他人行儀で、梔子さん自ら話し掛けに来てくれはしない。
「明日人が梔子さんか。失礼かもしれないけど、どこが好きなんだ?」
「ストレートすぎない?!……でも、言われてみればどこだろう」
「「これは一目惚れコースだ」」
「ちちち、違うし?!初めて見た時に本読んでる姿がよかったんだよ」
「それを一目惚れと言わずしてなんという」
自ら墓穴を掘ってしまった。
話題を変えよう…。
「もうすぐゴールデンウィークか」
「話題転換露骨だな?!……でも確かにそうだな、また遊びに行くか」
「それいいね!」
そう、もう四月が終わる。ゴールデンウィークだ。
この休みを機に、梔子さんとの距離をより縮めるのだ。
だが、事件はその日の部活で起きた────
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