第4話 友達であること
※
昔から女の子にはよく告白された。
回数が両指で数えられなくなってからは、もう告白された回数は数えなくなった。
俺は全ての告白を断り続けた。
それでも、女子は俺に告白してきた。
それに対して、嫌だとかめんどいだとか嫌悪を抱いたことは無いし、むしろ光栄だと思っている。
そんな俺に突如舞い降りた梔子朱里。
俺は彼女に初めての恋に落ちた。
そんな俺が、またもや、初めて女の子に拒絶された。
『いい加減にしてくれませんか』
『一人にしてくれませんか』
あれを言われた後のことは、衝撃すぎて覚えていない。
さて、そんな皆が認めるイケメンが何をしているかと言うと…
「羊が一匹……羊が二匹……羊が三匹…」
「……あ、あのー…大丈夫?」
教室の机に突っ伏し、意気消沈していた。
凛が俺に声を掛けてくれるが……。
「羊が四匹……棺が五基…棺が六基」
「棺?!本当に大丈夫?」
すると俺は、むくっと顔だけ凛に向ける。
「大丈夫だと思う…?」
「ごめん思わない」
「……なぁ凛。お前ならどうする?」
「なんか前もそんな話したよ?…でも私かー。私なら」
凛は、俺の方をチラチラと見ながら、頬を赤らめて言った。
「明日人が傍に居てくれたら嬉しいかな」
…なるほど。
凛の表情に一瞬ドキッとしてしまったが、俺はすぐに正気を取り戻す。
「ありがとう凛」
「え、う、うん…」
凛は何故か少し満足していないような顔をして俺を見送る。
なんだったんだろう……?
※
「…一人にしてください、と言いました…よね…?」
「うん」
放課後、図書室に来ると、初めて梔子さんから話しかけてきた。
「じゃあどうして…」
「君を一人にしたくないから」
「!」
梔子さんは本から目を逸らし、俺を見た。
俺は梔子さんに向け、言葉を放つ。
「友達が困っていたら、一緒に悩む。一緒に考える。寄り添う。そんなの当たり前だろ?」
「……でも、それじゃあ桐生くんに迷惑が……!」
「迷惑?大いに結構。悪口やらなんやらは勝手に言わせていればいい」
俺は別に、黒板に書かれ話題にされたことなど梔子さんが悪いなどと微塵も思っていない。悪いのは市ヶ谷達でしかない。
「どんな悪口を言われようと、俺達は友達だから」
「……私には、わかりません……」
梔子さんは席を立ち、俺を真っ直ぐ見つめる。
「桐生くんが…どうして私に……私と一緒にいたいのか。私に何を…求めているか……」
俺が、梔子さんと一緒にいたい理由。
俺が、梔子さんに求めること…。
それは、
「なんでだろうな?」
「……え?」
思っていた反応と違うのか、梔子さんは困惑の声を上げた。
だが俺は続ける。
「そもそも、友達ってなにか求めてなるものなのか?」
「……わかりません」
「俺は違うと思う。楽しいから一緒にいるんじゃない。一緒にいるから楽しいんだよ」
「…一緒にいるから……?」
「あぁ、この前スタバ行った帰り、梔子さん言ったよね?『楽しかった』って。強いて理由をあげるんだったら、その感情が理由だよ」
俺が友達としてでは無く、梔子さんに対して求めること。
それは、俺の傍で笑って、楽しんでいてくれること。
「梔子さんがどんなに辛くても、どんなに苦しくても、俺や凛や匠がいる」
すると、梔子さんが口を開いた。
「…一緒に…いてもいいんですか?」
「あぁ」
「……桐生くん達に迷惑が掛かるかも……しれませんよ?」
「ドンと来い」
「……もう一度…」
梔子さんは、俺を、俺だけを真っ直ぐ見つめる。
「もう一度……私と友達になってくれますか?」
「当たり前だろ。てか、友達やめた覚えはないぞ」
※
「私は……中学まで友達、というのがいたことがなくて…」
図書室からの帰り道。
俺の隣を歩く梔子さんが言った。
「だから…友達というのが、何をするのか…わからないんです」
「…そうだなぁ、凛とか匠といると、いつも行き当たりばったりみたいな感じだから、そんな感じでいいと思う。ある程度経てば加減もわかるんじゃないか?」
「そうですか……!」
二人きりで帰ってると制服デートみたいだな。
誰かに言われたら俺が恥ずか死ぬんだろうけど…。
俺はここでずっと気になっていたことを切り出す。
「梔子さんさ、前髪短くしないの?」
「前髪ですか…。切った方がいいですかね……?」
梔子さんは自分の前髪をちょいちょいといじってみせる。可愛い。
「うん!それがいいと思う!」
「え、そ、そうですか…?」
「絶対そうだよ!」
前髪切った梔子さん、見たい!
というか絶対可愛い!
「絶対似合うよ。…まぁ、無理にとは言わないけど」
ちょっと押しすぎたかもしれない。引かれてないけどいいけど……。
だけど前髪切った梔子さんか…。
「それじゃあ…私はここで……」
そんなことを考えているうちに、梔子さんと別れる道まで来てしまっていた。
なんかすごいあっという間だったな。
「じゃあ」
「…はい……!じゃあ…また……!」
手を振る梔子さん。可愛い。
その日の夜、俺は、
「恥ずかしすぎるっ!」
自室の枕を抱え顔を埋めて叫んだ。
恥ずかしすぎる!
『君を一人にしたくないから』
『友達やめた覚えはないぞ』
なんだこの
俺どんな顔して言ったの?!ぶっちゃけ梔子さん引いててもおかしくないよね???
誰かー!誰か俺を殺してくれぇぇー!
俺はその日、梔子さんに引かれたのでは?という恐怖に襲われた。
※
翌日俺が登校すると、なにか慌ただしかった。
「おい!見に行こうぜ!」
「おう!」
クラスの男子達が、ドタドタと教室を出て行く。
本当に何があったんだ……?
「なぁ、匠。何があったんだ?」
もう既に登校していた匠に事情を聞く。
「明日人か。お前、見てきたか?梔子さん」
「梔子さん?」
梔子さんがどうしたのだろう。
匠は「まあ、見た方が早いだろ」と言って、俺を教室から連れ出す。
そしてすぐ隣の教室の扉を開ける。
「ほれ、見てみろ」
「!……マジか」
そこには、昨日まであった伸ばし放題だった前髪が無くなり、すっきりとした髪の梔子さん。
俺は人ごみを掻き分け、梔子さんに話しかける。
「前髪、切ったんだな」
「……!桐生くん…。はい、似合ってますか……?」
「ああ、もちろん」
この胸の奥から湧き上がる鼓動はなんだろう。
梔子さんが俺の言葉に影響を受けてくれたのが嬉しいのか。彼女の可愛さに緊張しているのか。
「…ありがとうございます…!」
多分そのどちらもなのだろう、と。
俺は、彼女のまだ上手く作れない笑顔を見てそう思った。
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