第2話 友達であるための条件
※
「……ごめんなさい。あなたとお友達にはなれません」
「え……?」
先程まで、断られるなど毛頭考えていなかった俺は、目が点になるほど驚愕する。
「えーと、なんで……?」
「私みたいな人が……、桐生さんのような方や…その周りにいる方達とお友達なんて……おこがましいです……!」
「そんなことないよ。みんないい奴らだ。梔子さんもきっと楽しい」
「……そうですか?」
「あぁ、そうだよ。だから、友達にならない?」
ここで退いてしまったら、意味が無い。
もう一押し!
「俺は梔子さんと仲良くなりたい」
「……!」
すると梔子さんは少しだけ考えるように俯くと、顔を上げ言った。
「……分かりました。…よろしくお願いします……!」
彼女の髪の間から見えた瞳に、俺は胸の鼓動が早くなるのを感じていた。
※
梔子さんと友達になった翌日の放課後。
「ねね、スタバ行こうよ!」
「お、いいなそれ」
凛の提案に
匠は、サッカー部のエース。クールで爽やか系イケメンな俺に対し、匠はハツラツ系イケメンだ。
それは決して暑苦しいということではなく、場を盛り上げるという意味でだ。
「明日人はどうするー?」
「俺はそうだなぁ……」
そこで俺はふと思い付く。これはチャンスかもしれない。
「ちょっと誘いたい人がいるんだ」
「「?」」
「────おまたせ」
「本っっっ当に待ったよ!なんでこんなに時間かかるのさ!」
「悪い悪い。手間取っちまってな。それで……」
俺は俺の背中に隠れる彼女を紹介する。
「こちら、隣のクラスの梔子朱里さん。今日は彼女を連れてってもいいか?」
「……うん!全然いいよ!よろしくね、梔子さん!朱里ちゃんって呼んでもいい?」
「よろしく、梔子さん!仲良くやろう!」
梔子さんはまだ少し慣れないのか、俺の方を不安げに見ると、俺はコクコクと頷く。
「……よ、よろしくお願いします…!あ、名前は自由に呼んでいただければ……」
「じゃあ朱里ちゃんね!よろしく!私は田川凛。凛って呼んで!」
「俺のことも匠。それかたっくんとでも呼んでくれ」
「……そ、それじゃあ、凛さん、たっくんさん…!」
う、羨ましい……!
俺のことも明日人。それかあすくんと呼んで欲しい!
「俺のことも明……」
「明日人、立ち話もなんだからそろそろいこーよ!」
「え、あ、うん」
凛に遮られてしまった。
明日人と呼んでもらうようになるのは、また今度でもいいか……。
※
スタバに着き、それぞれが注文した品を受け取り、凛と梔子さんが仲良く話すその傍らで、
「なぁ、なんで桐生が梔子さんを?」
「ちょっとな……」
「おっと、ただならぬ雰囲気だな!さては……」
「しーっ!静かにしろ!聞こえるだろ!」
危ない危ない。
やっとの思いで友達になった矢先に俺の好意がバレ、距離を置かれようものなら、俺はメンタルブレイクしてしまう。自分で言うのもなんだが豆腐メンタルだ。
なら、もう少し仲良くなってからでいい。
「理由は察しの通りだが、黙っててくれよ?」
「あぁ、それはいいけど。凛は……」
「凛?なんでここで凛が出てくるんだ?」
「あぁいや、なんでもない忘れてくれ」
匠は一体何が言いたかったのだろう。
こちらの会話が途切れたので、隣の女子トークに耳を傾ける。
「────どういう本読むの?」
「……えーと、特にこだわりはないですね……」
「ラノベとかは読まない感じ?」
「……そうですね、全くというわけではないのですが、あまり読みません…」
うーん……なんかたどたどしい。
梔子さんが完全に聞き手に回ってしまい、凛が一方的に話しかけるという形になっている。
本来、仲良くなるのならお互いに聞き手と話し手を交代交代でやるべきなのだ。
「私は基本ラノベが多いなー。あ、でもメジャーなのも読むよ、『人間失格』とか!」
「あ、それは私も読んだことあります……」
「お、流石〜!ねね、連絡先教えてよ!」
つくづく思うが、凛はコミュ力がすごく高い。
今回の場合、梔子さんと凛にコミュ力の差がありすぎて、梔子さんが完全に置いて行かれてしまってる。
「……あ、はい。……えーと、どうぞ」
梔子さんはスマホを操作するとトークアプリのQRコード画面を見せる。
え、なにその機能?!
フルフルしかしたことないからそんなの知らない。
「よし、完了ー!」
「次は俺ともしてくれ」
続いて、匠がQRコードを読み込む。
ついでに俺も。
「それじゃあ、そろそろお開きにしようか!」
凛の一言で今日はお開きとなった。
※
凛と匠は先に帰り、俺と梔子さんは本屋に寄った。その帰り道。
「……で、どうだった?」
「……はい、楽しかったです。……凛さんはとても優しくて…。たっくんさんも話しやすかったです……」
俺の名前が上がらないのはなんででしょう?
べ、別にいいんだけどね!
「そうか、良かった。明日からも仲良くしよう」
「はい……!」
前髪で目が隠れていてもわかる。
梔子さんは笑っている。
それが何よりも嬉しくて。その笑顔をいつまでも見ていたい。
でも翌日、全てを覆された。
『妖怪クチナシは地獄に落ちるべしッ!』
黒板にチョークで大きく書かれたその文字によって────
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