第10話 武器屋



 クレハに案内され、ギルドからこの〝大都市エルクステン〟にあるクレハがよく行く武器屋を目指す。


 それにしても……


 ──これぞ異世界の街って感じだな!


 街を見渡すと、漫画やゲーム等でよくある──絵に描いたような〝ザ・異世界〟な風景が広がっている。


 異世界あるあるの王道のヨーロッパ風の建物や、露店が賑わう大通り──そして人間ヒューマンは勿論、耳の尖ったエルフや、猫耳や犬耳の生えた亜人といった、様々な種族が、ごく当たり前に共存して生活をしている。


 露店の並んでる物も、見た事の無い物ばかりだ。


 ──あ、でも、知ってるものもあるな?


 あの、八百屋みたいな露天に売っている食べ物は、どうみてもネギだな? 長ネギ。スーパーでもよく見るあの野菜だ。白と緑の長いやつ。


 ……で、その隣の店のあれは焼き鳥か?

 てか、あれ〝ねぎま〟だよ! ねぎま!


 異世界にもあるんだな? まあ、ネギとネギに挟まれて焼かれているあの肉が、にわとりの肉なのかも……そもそも鳥肉なのかすら、今の俺に分からないが。


 エメレアとかも最初に見た時は驚いたが、エルフや亜人といった〝元いた世界〟だと、ゲームや漫画の中でしか実在しないような人々を、こうして改めて実際に目で見るとやっぱテンション上がるな。


(まあ、でも、女神様アルテナにあった時が色んな意味で一番驚いたけどな──神様も異世界も実在したんだな……)


「ユキマサ君、こっちだよ!」


 クイクイと服の袖を可愛く引っ張り、異世界の街に軽く感嘆していた俺にクレハが話しかけてくる。


 まあ、実際に考えてた事の大体はというと……

 〝ねぎまとエルフと神様〟という我ながら〝頭の中どうなってんだ?〟という謎の3項目なんだけどさ。


「ああ、悪い。少し考え事をしていた。それにしても混んでるな。いつもこんな感じなのか?」

「今日はいつもより混んでるかな。多分、ヒュドラの影響かも。他の都市や国からも話を聞いて、都市の近郊きんこうへの〝特別変異種指定魔獣ヴァルタリス〟の出現で、の為に呼ばれて来た人も多くいるみたいだから」


「鎧を着た騎士みたいなのや、結構な量の荷物を持った冒険者っぽいのがやたら多いのはそのせいか」

「ヒュドラはユキマサ君が倒してくれたから本当に良かったけどね。特定変異種指定魔獣ヴァルタリスのヒュドラなんて〝魔王〟とまでは言わないけど、それこそ〝魔族〟が攻めてきたとか、それに近いレベルの驚異だよ?」


「そう言われてもな……」


 〝魔族〟に〝魔王〟か……

 そういや、魔王はあと3人いるんだったか?


 元々は4人らしいが〝魔族〟ってのも少し気になる。

 まあ〝魔王〟の部下とか眷属けんぞくたぐいだろうが。


「もー、というか、ユキマサ君て飾らないっていうか……何か本当に大物だよね……」

「何だ急に? 別にそんな酔狂すいきょうな人間じゃないぞ?」


「そういう所だよ? 私は別に嫌いじゃないけど……」


 何故か、少し顔を赤くしてクレハは誉めてくる。


(まあ、言われて悪い気はしないが)


 そんなこんなを話して歩いていると──


「あ、ここだよ!」


 と、いつの間にか目的地の武器屋に着く。


(外装は、これまた絵に描いたような、異世界のテンプレ武器屋という感じだ。これは店の店主も、異世界テンプレ武器屋親父みたいなのが出てくるのか?)


 そんな事を考えながら……


 ──チャランチャラーン!!


 と、ベルの付いた扉を開け、クレハと店に入る。


「いらっしゃいませ」


 すると落ち着いた声で女性店員が出迎えてくれる。


 職人気質のテンプレ武器親父みたいなのが出てくるかと思っていたが、普通に女性店員だったな。


 しかも、かなりの美少女。


 見た目はロングの薄い水色の髪の、清楚で落ち着いた感じの、10代半ばぐらいの美少女だ。


「お邪魔します。レノンさん」


 出迎えた店員にクレハが挨拶をする。


「クレハさん……! 良かった。ヒュドラの件で凄く心配してましたが。ご無事なようで安心しました」


 ホッとした様子の武器屋の店員。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」


 どうやら、顔見知りのようだ。

 まあ、行きつけと言ってたしな? そりゃそうか。


「ふふ。それにしてもクレハさんが殿方と2人とは驚きました。今日はもしかしてデートですか?」

「で、デート!? ち、違いますよ! 別にそんなんじゃ無い筈です……!」


 かあぁぁ! とクレハは顔を赤くして抗議する。


「ふふ。それは失礼しました。本日は何をお探しですか? それとも武器の修理やメンテナンスでしょうか?」

「あ、今回は私では無くてこちらの彼が武器を探していまして。私は付き添いです」


「なるほど、彼ですか!」

「れ、レノンさんッ!」


 更に顔を赤くしたクレハは、武器屋の店員の少女──レノンに面白いようにからかわれている。


 仲が良いのか楽しそうに話をしているな。

 歳も近そうだし、クレハの性格なら同性からでも基本的にかなり好かれるタイプだろう。


「失礼しました。初めまして。私はこちらの武器屋の娘でこちらで働いております。レノンと申します。以後、よろしくお願い致します──」


 ペコリと上品にお辞儀をして挨拶をしてくる。


「俺はユキマサだ。ここは武器の修理やメンテナンス何てのもできるのか?」

「はい。武器の販売から修理やメンテナンスも承っております」


「そうか。何かあれば俺もに是非に利用させてくれ──今日は取り敢えず〝剣〟と〝魔力銃〟を1つずつ欲しいんだが? 見てせもらってもいいか?」


「あれ、ユキマサ君〝魔力銃〟も買うの?」

「ああ、できればもう1丁ほしい」


 個人的には銃は合計で2丁ほしい〝魔力銃〟なら、普通の銃と違ってリロードも無いから、下手な武器より効率もいいしな。


「はい、でしたらこちらに」


 と、レノンにまずは剣の売場に案内される。


「剣の他にも短刀や刀等も多数揃えております」


 少し言い方は悪いかもだが、この店の規模の割りには、確かに種類は大分豊富みたいだ。だからと言って雑に並んでるわけでも無く。全部が綺麗に並べられており、武器屋なのに変な食堂よりも清潔感がある。


「少し見せてもらってもいいか?」

「勿論ですよ。ごゆっくりどうぞ」


「悪いな」


 と、レノンの許可も下りた所で、俺は売り場にある剣や、試しに刀も何本かを手に取って見てみる。


 ──


 ────


 だが……


(ダメだな。何かしっくり来ない……)



 その後も、レノンが勧めてくれた剣や刀を10本以上は見てみたのだが、どうもピンと来ない。


「ユキマサ君、どう? 良さそうなのあった?」

「決して品自体が悪いってわけじゃないんだが、何かどれもしっくりと来ないな……」


 試しに軽く剣に〝魔力〟を込めながら、俺はどの程度〝魔力〟にも耐えられるかも計りつつ武器を選ぶ。


 だが、やはり個人的にはイマイチしっくり来ない。それに間に合わせで買って、さっきのアルテナに貰った剣みたいに、また直ぐに折れてしまっても困る。


 ある程度の魔力にも耐えられるような物でないと、先のヒュドラぐらいの相手が来たら、またすぐにダメになってしまうだろう。


 こう言っちゃあれだが……今後、魔王と戦うと考えると、正直どれもちょっと心許こころもとない感じだ。


「うーん、確かに何か違う気がする……」


 俺が剣を試してると、隣から、クレハも「じゃあ、これは?」と、俺に色々と剣を渡して来てくれる。


「──!? す、凄い魔力量ですね。これ程とは……」


 その様子を見ていたレノンが、目を大きく開けて、パチパチと瞬きをしながら驚いた表情をする。


 一応、流石に売り物だからこれでも〝魔力〟は抑え気味にしてたんだがな……


「失礼ですが、ユキマサさんはレベルはどれぐらい何でしょうか? 少し値は張りますが、レベル50以上の方は〝オーダーメイド〟で作られる方が多いですので。それも視野に検討してみてはいかがですか?」


 そんなレノンの質問と提案を聞くと、クレハが興味津々な目で俺をじーっと見つめてくる。


 レベルが気になるのだろうか?

 自己紹介の時は言わなかったからな。


「レベルは50は超えているが。オーダーメイドか……」


 まあ、正確にはレベルは100以上なのだが。


「レベル50は越えてるだろうとは思ってたけど……」


 じーっとクレハはまだこっちを見ている。どうやら俺の返答にあまり納得がいかなかった様子だ。


「もちろん無理にではありませんよ。あくまでも1つの選択肢とお考えください。それにしても魔力量もですが、レベルも50越えですか。驚きました……」


 淡々と話してはいるが、レノンの表情から察すると本当に驚いた感じだ。


 と、その時……


 ──チャランチャラーン!!


 店の扉に付いたベルが鳴り、

 開いた扉から新たな客が入ってくる。


「いらっしゃいま……!?」


 レノンが挨拶しようとするが、声が途中で止まる。


「お邪魔するわね。レノン、元気だったかしら?」


 そんな声と共に、黒を主調としたたけの長いドレスローブを着た、妖艶な雰囲気を纏う、豊満な胸にモデルのようなスタイルの長い黒い髪の美女が入って来る。


「し、師匠! いつこちらへお戻りに!?」


 レノンは先程よりも少し驚いた声をあげる。


 そして隣にいるクレハは『──ッ!?』と驚いた顔をした後に、ペコッと深々と頭を下げている。


「今さっきよ。それにしても面白い客が来てるわね」


 妖艶美女が俺の方を見るとゆっくり近づいて来る。


「私はエルルカよ。よろしく頼むわね。ーや?」


 俺をーやと呼び、ゆっくりとした喋り方のこの妖艶美女はエルルカと言うらしい。そしてエルルカの発する言葉の一つ一つにはつややかな色っぽさを感じる。


「ユキマサだ。こちらこそ……」

「で、ーや。ここにはーやに合う剣や刀は無いわ。時間の無駄よ。他を当たりなさいな?」


「随分ハッキリと言うな?」


(何だ? この妖艶美女は?)


「で、それとくだんのヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟を倒したのはーやで合ってるかしら?」


 エルルカは俺の質問はスルーで話を変えて、逆に質問をして来る。結構マイペースな性格みたいだ。


「ああ、一応な……」


 ここは肯定の返事をしておく。


「いやいや……一応じゃなくてあれはユキマサ君が全部一人で倒したでしょ?」


 と、俺は隣にいるクレハに冷静に突っ込まれる。


「そ、そうだったんですか!?」


 その話は初耳らしいのレノンがまた目を真ん丸に見開き、驚いた声をあげる。


「そう、なら受け取りなさい」


 と、言うと、エルルカはクイッと指を動かし、何もない空間から、突如取り出した真っ黒な剣をポイッとこちらに投げてくるので……


 ──バシッと、俺は投げられた剣を受けとる。


(今のは〝アイテムストレージ〟か?)


「名は〝月夜かぐや〟この──エルルカ・アーレヤストの手掛けた一品よ。ーやはこれを使いなさいな」


 そして、俺は渡された剣を見て驚愕する。


「……驚いた。いい剣だな? 作りもスゴく綺麗だ──てか、あんた鍛冶師だったのか?」


 そういやレノンには〝師匠〟って呼ばれてたな?

 にしても……鍛冶師には見えんぞ?


「ユキマサ君……それ本気で言ってるの?」


 ──あ、不味い……。

 このクレハの表情はあれだ。竜車でこの世界の魔王は3人いるっての話を聞いた時の『何で知らないの?』みたいな、若干引いた様子の顔だ。


 前にも思ったが、例えるなら日本で〝今、総理って誰だっけ?〟みたいな質問を本気で聞くような人を見て──〝嘘でしょ……?〟と、残念ながら記憶力に問題がある可哀想な人を見るような顔だ。


 反応を見るにエルルカは相当な有名人らしい。


「……ふふ、あっはっはっは! 私が鍛冶師になってから、そんなことを聞いてきたのはーやが初めてよ……ふふっ……」


 エルルカは何にツボったのか腹を抱えて笑いだす。


(悪いな。何せこっちは異世界初日なもんでね)


「し、師匠がこんな風に笑う所はじめてみました……」


 レノンは驚きを通り越してポカーンとし始める。


 てか、この子……さっきから驚いてばかりだな?


「えーっとね……〝剣斎けんさい〟エルルカ・アーレヤスト──〝人類最高の鍛冶師〟にして人類の中心〝中央連合王国アルカディア〟のたった6人の精鋭部隊〝王国魔導師団〟の1人で、人類でもトップクラスの実力者の人だよ?」


 察してくれてか、クレハが丁寧に説明してくれる。


 それに〝中央連合王国アルカディア〟?

 いくつかの人類の国が集まって魔王に対抗しようみたいな感じか……?


 あと、たった6人の精鋭部隊〝王国魔導師団〟? 

 まあそこが人類の中心の国なら……そこが落ちれば、事実上は人類の敗北と言う事にもなり得るだろうからな。実力者を集めるのは当然ちゃ当然か。


「そりゃ……有名なわけだな。二つ名もあるのか?」

「まず、そこなの……? 二つ名はレベル70以上になった人はギルドに付けて貰えるよ?」


 ……え、って、そういうシステムなのか? レベル70以上ってことは──最低でもレベルだけみればギルドマスターのロキと同等か、それ以上って事か?


「ふふ……そういうことよ。説明ご苦労様」


 笑い終えたエルルカが会話に参戦してくる。


「いえ、お会いできて光栄です。申し遅れましたが私はギルド〝第8騎士隊〟所属のクレハ・アートハイムと申します」


 クレハがお辞儀をしながら自己紹介をしている。


「そう、クレハ。覚えておくわ」


 エルルカの雰囲気からは、本当に覚える気があるのか、無いのかよく分からない返事で短く返す。


「で、これを俺が使っていいって言うのはどういう意味だ? 聞いた話だと、かなり高い物だろ?」

「そのまんまの意味よ。ーやにあげるわ」


「そりゃ、ありがたいが……」


 あれだけ持ち上げられた後だど受け取りづらいな。


 剣を見た感じも、話を聞いた感じも俺の手持ちと言うか……言っちゃ悪い気がするが、アルテナから貰った支度金じゃ買えない値段だろこれ?


「強いて言うなら、その〝変異種ヴァルタリス〟のお礼かしら? この件は〝アルカディア〟から私が任されて来たのよ。坊ーやのおかげで手間が省けたわ」


 ……なるほど、そういうわけか。

 でも、それにしても気前が良いな。


「いいのか? 返さないぞ?」

「安心しなさい。今まで私の作った武器を返しに来るような愚か者は、今までに存在し無いわ」


 だろうな。品云々うんぬんは勿論だが、このエルルカ相手に返品を突き付けられる者は、あまりいなさそうだ。


「なら、ありがたく使わせてもらうよ。でも……」


 俺は魔力を込め指をスライドし〝アイテムストレージ〟から金貨1枚を取り出して、エルルカにそっと投げる。


「「あ、アイテムストレージ!?」」


 クレハとレノンが最初の『あ、』の部分まで綺麗に揃って声をあげてるが、今はスルーだ。


 確か、空間系のスキル扱いだったなこれ?


 ──パシッと、エルルカが金貨をキャッチする。


「足代の足しぐらいには成るだろ。これをタダ貰うってのも流石に気が引けるからな。本来じゃ全く足りないだろうけど、申しわけ程度に受け取ってくれ……」


 金貨1枚。日本円換算だと10万だ。

 足代ぐらいには成る筈だ。多分。


「ふふ……私の武器に金貨1枚? 坊ーや、商人とか向いてるわよ……ぷッ……あははははは!」


 エルルカはまた腹を抱えて笑いだす。


(うーん、こいつのツボが分からん……)


「それにそれは〝アイテムストレージ〟? そのスキルは小? 中? ──それとも大かしら?」


 そういやそんなのあったな? 〝小・中・大〟の表記。具体的に何がどれぐらい違うんだろうな?


「……大だ」


 と、俺はここは素直に答えておく。


「私は〝アイテムストレージ〟は中よ。坊ーやの勝ちね。いいわ、この金貨は貰っておくわ……」


 その言い方だと、俺、勝ったのに損してないか? 


 勝ったのに金取られたぞ……? あ、いや、勿論、こちらの言うことを飲んでくれたって意味だろうが。

 一瞬悩んじまったよ。言葉って難しいよな。


「──少し気が変わったわ」


 そう言いエルルカが指を横にスライドすると……


(──ッ速い……!!)


 ──ビュン!! ガキーンッ!!!!!!


 エルルカは自身の〝アイテムストレージ〟から取り出したであろう、の刀を両手に持ち、その刀に〝魔力〟を込めて俺を斬り付けてくる!


 それを俺はエルルカに貰った剣──〝月夜かぐや〟に〝魔力〟を込め、寸での所で受け止める!


「──ッ……!? 何だ、急に?」


(殺す気は無かったみたいが、完全に意識は狩り取る気だったな……?)


 それにしても速かったな? ゾクッとしたぞ。


 しかもこの一瞬で俺1人にだけ集中する形で、この店を壊さないようにすら気を使って俺に攻撃して来ている。


「受け止めた!? いえ、それよりも無傷!? 坊ーや、一体何者なのかしら……?」


 速さには自信があったのか、エルルカは顔をしかめながら俺が攻撃を受け止めた事に驚いてる。


「あんたに貰った月夜これが無ければ、今頃は無傷じゃなかったかもな……」


 わりとガチでアルテナに貰った剣の強度だったら、魔力を込めても剣の方が持たなかったと思う。


 それぐらいエルルカの一撃は速く──重かった。


「合格よ、坊ーや。いえ──ユキマサ」


 合格? それと初めて名前で呼ばれたな?


「ユキマサ君ッ!!」

「師匠ッ!!」


 呆然としながら、今のやり取りを見ていたクレハとレノンが心配した様子でかけ寄って来る。


「何だったんだ……?」


 てか、合格って何のだ?


「クレハ? あなた、ユキマサとは恋仲なのかしら?」


 ──は……何だその質問は!? 


「こ、恋仲……!? ち、違います、べ、別にそんなんじゃ……」

「そう、なら良いわね」


「し、師匠……まさか……」


 レノンだけは何か心当たりがあるようだ。


 そしてエルルカがグイッと俺の右腕を掴んで腕を組んでくると、それはそれは柔らかくて豊満なエルルカの胸が、むにゅりと俺の腕にあたる。


「凄く気に入ったわ。ユキマサ、あなた私と──」


 ──ヒュンッ! パッ!!


 エルルカの言葉が言い終わる前に、クレハが〝空間移動〟で俺の隣に移動し左腕を掴んでくる。


「な、な、な、何を言おうとしてるんですかッ!? ちょ、ちょっと待ってください!!」


 ──ヒュンッ! パッ!!


 更にクレハ〝空間移動〟を使い、俺の左腕を掴んだままの状態で、俺を連れてエルルカから距離を取る。


(──うお……っと……!?)


 これが〝空間移動〟か? 

 俺は初めての感覚に少し驚く。


「……あら、それは〝空間移動〟?」


 何だ、この状況は?


「ユキマサ君はエルルカさんみたいな人がタイプなの? 確かにエルルカさん物凄く美人だけどさ……」 


 そして何やら物凄くムスーッ!! としてるクレハがそんな事を聞いてくる。


 な、何なんだ? 皆して……


 するとエルルカが色気のある声で淡々と口を開く。


「──ユキマサ、私と夫婦めおとになりなさい」


「……は……夫婦めおと?」

「え……」

「………」

 と、状況が追い付かないでいる俺と、何故かショックな様子のクレハと、無言で話を聞いてるレノン。


「あ……ちょ、ちょっと……待って──や、ヤダッ!」


 ギュッと掴んでいた腕をクレハは更に強く握る。


「……!? いや、待て……夫婦めおと──?」


 俺は唐突の告白に思わず声をあげる。


「えーっと……ですね。師匠は、もし異性と、その……お付き合いをするなら。昔から自分よりも強くて、見た目も若く、黒髪の男性じゃないと嫌だと言ってましてですね……」


(さっきの合格ってそういう意味かよ!?)


「私の条件にユキマサは全部当てはまるわけよ。それにいい加減私も男の1人も作ってみたいと思っていた所だし……でも、だからと言って私が焦がれるような相手が居なかったから、今まで諦めていたのだけど……貴方の事は凄く気に入ったわ──いえ、最早、好きよ」


「……師匠、本気ですか?」

「レノン。私が冗談を言わないのは貴方がよく知ってるでしょ? まあ、でも……今日の所は彼女に免じてこれで引いておくとしようかしら?」


 エルルカはチラッとクレハを見る。


「……!!」


 クレハは反応はするが、無言でいる。


「レノン、後でまた来るわ。それじゃあね、ユキマサ。また会いましょ? ……今度は2人きりでね?」


 そう言い残し、再び来た時と同じく扉のベルを鳴らしてエルルカは店を出ていく。


 ──エルルカが出ていくと数秒の沈黙が流れる。


「えーっと……何だったんだ?」


 その沈黙の中で俺が口を開く。


「も、申し訳ありません。師匠は何と言いますか……いつも唐突な方なので……」


 レノンが申し訳なさそうに謝ってくる。


「確かに色々凄かったな……」


 まさか、告白を通り越してプロポーズされるとは流石に思わなかった。


「あー、クレハ……? 大丈夫か?」


 俺の腕をギュッと掴んだまま、

 ポカーンとし動かないクレハに声をかける。


「……ひゃッ……あッ……うん。ご、ごめんなさい……」


 顔を真っ赤にしたクレハは俺の腕から離れる。


「それとレノン。これと同じ〝魔力銃〟はあるか?」


 俺はアルテナに貰った〝魔力銃〟を見せつつ、レノンに話しかけ、取り敢えず話題をそらす。


「……あ、はい、それと同じ物でしたら。あと1つだけですが在庫があります」

「じゃあ、それを売ってくれ。いくらだ?」


 この銃が使いやすく結構気に入っていたので、同じ物があれば同じ物と考えていたので俺は即決する。


「金貨1枚になりますが、よろしいですか?」

「ああ、構わない」


 俺は〝アイテムストレージ〟から金貨を1枚を取り出してレノンのてのひらに渡す。


「ありがとうございます。それではこちらを──」


 支払いを済ませると、直ぐにレノンが〝魔力銃〟を渡してくる。


「良かったね、欲しいもの買えて。まあ、剣はエルルカさんに貰ってたような感じだったけど……?」


 まだ顔が少し赤いクレハは最初は笑ってくれるが、最後の方は『ふーん……』と拗ねたように言ってくる。


「ああ、武器はこれで行けそうだ。クレハもレノンありがとう。助かったよ」


 この剣なら〝魔王〟相手でも戦えるだろう。


「それこそ気にしないで。私は案内しただけだし」

「十分過ぎだ。ホントにお陰さまだ」


「また、何かありましたらいつでもお越しください」


 ペコリとレノンがお辞儀する。


「ああ、また利用させてもらうよ」

「はい。また是非ご贔屓ひいきに──あとクレハさん、その……師匠がすいません。色々と……」


「い、いえ、レノンさんが謝ることでは無いです。て、ていうか、そ、そんなには、その……あまり別に多分全然私は気にしてない筈ですから……!?」


「それとこれはクレハさんの友人としてのお話ですが、師匠がああいう感じになった事は見たこと無いです。けど……恐らく本気ですので、が、頑張ってください! ──それに私は師匠とクレハさん、どちらかだ何て選べないので、私は中立の立場でいますから!」


 両手をグッと握りしめたレノンは、クレハに耳打ちしながら何かを応援している。


「えっと……そ……その……///」

 ゆっくりと顔が赤くなるクレハは……

「ま、また来ます! ありがとうございました! ゆ、ユキマサ君、い、行くよ……!」

 と、俺の腕をがしっと掴んで、慌てた様子で逃げるように店の出口にへと向かう。


「あら、仲が良いですね。羨ましいです♪」

「レ、レノンさんッ! で、ですから、あ、あまりからかわないでください!」


「失礼しました。またのご来店お待ちしております」


 流石にからかいすぎたと思ったのか『ゴホン、ゴホン』と、わざとらしく咳払いをした後、シャキっと姿勢を正して謝っている。


「──で、では、失礼します!」


 ペコリとお辞儀をするレノンに見送られながら……

 ──チャランチャラーン!! 

 と、入店時と同様に店の扉に付いたベルを再び鳴らしながら、俺とクレハは武器屋を後にするのだった。

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