第9話 大都市エルクステン2
──ギルドマスター室を後にした俺は、ヒュドラとの戦いで壊れてしまった剣の代わりになる新しい剣を武器屋で買いがてら、この異世界の街でも見て回ろうかと考えながらギルドの中を歩いていく。
……すると、俺はギルドの出入口付近にキョロキョロと辺りを見回して、誰かを探している様子の知った顔の黒髪のセミロングの少女を見つける。
その少女もこちらに気づいたらしく……
「──あ、いた! ユキマサ君! よかった、行き違いになったらどうしようと思ってたよ……探しちゃった。もうお話は終わったの?」
と、どうやら俺を探してた様子のクレハが手を振りながら、パタパタと駆け足でこちらに近寄って来る。
「ああ、軽い質問と自己紹介。それと紅茶をご馳走になってきた。まあ、思いの
「そうなんだ。システィア隊長は、多分まだ報告書とかも書かなきゃみたいだから……特に今回は事が事だから、まだ大分かかりそうだね」
苦笑いのクレハはシスティアを心配した様子だ。
「それに隊や冒険者から死者を出した事に随分責任を感じていたみたいだ。本人にも言ったが……別にシスティアのせいじゃないと俺は思うけどな?」
「うん、昔からそうなの、優しい人だから。それに必要以上に責任も感じちゃう人なんだ……」
『それも良い所なんだけどね』と、付け加えながら苦笑いのクレハだが、声は優しく何処か誇らしげな感じだ。
「昔から? そういえば隊長と部下にしては随分と仲が良かったと言うか、それ以上に親しそうな感じだったな? エメレアとミリアもそうだが……」
〝隊長と部下〟や〝先輩と後輩〟と言うよりは……
──〝姉妹〟とかのがしっくりくる感じだった。
「うん、昔からの付き合いなんだ。家のお婆ちゃんとシスティア隊長のお母さんが、昔同じ〝騎士隊〟にいたみたいでね。それでお家同士でも仲も良くて、私が小さい頃から、システィア隊長もよく家に遊びに来たりもしてたんだ」
「へぇ、そうなのか。てか、クレハの婆さんも騎士だったんだな?」
騎士は家系なのか? いや関係ないか。
「うん。お婆ちゃんが騎士を引退した後はギルドの養成所で教官をしてた事もあって、その時にそこでシスティア隊長を教えたりもしてたんだって。あと、エメレアちゃんとミリアは私の〝幼馴染み〟で、2人も昔からよく遊んだりして、ずっと一緒だったから、皆スゴく仲良しなんだ」
今度は凄く嬉しそうな顔で話してくれる。
(何て言うか〝喜怒哀楽〟が分かりやすい子だな……)
「姉妹みたいだな? 道理で仲が良いわけだ」
やっぱり〝姉妹〟のがしっくり来る気がする。
「うん。私自身は
と、これまた本当に嬉しそうに笑うクレハ。
「ちなみにユキマサ君は兄弟とかいるの? あ、これ、聞いてもいいのかな?」
「俺も
俺は孤児院の同い年の女の子……
──〝
まあ、理沙に至っては
「お……幼馴染み……もしかして、それって可愛い女の子だったりとかする……?」
じーっとした目をしながらクレハが聞いて来る。
「えーと……? 確かに女の子だな。それに可愛いかと聞かれれば可愛いと思うぞ?」
理沙のことを可愛いかと聞かれれば……
──理沙は間違いなく可愛いだろう。
それに性格も悪くは無い。
ただ、何故かたまに良く分からない所で怒る時? と言うか不機嫌? になる時はあったけどな?
まあ、母さんが怒った時に比べれば可愛いもんだ。
するとクレハはジトッとした目で、
「ふーん……そうなんだ……ふーん……」
と、急に不機嫌そうになる。
(な、何だ、怒ってるのか? それにこれは前に理沙に何故か怒られた時と、一緒の感じの怒り方だぞ?)
理沙に何で怒ってるのか聞いても『うるさい、馬鹿!』としか言わなくて、何で怒ってるのかは結局は教えてくれなかったし。
「えーっと、クレハ……?」
「ユキマサ君……モテそうだもんね? 私は恋愛の経験とかも無いから、そういうのはよく分かんないけど。あ……あと、別に……怒ってないからね……?」
急にクレハは拗ねたような態度になる。
「何で今の話で恋愛とかの話しになる……? それに残念ながら俺はモテた経験は特にないぞ?」
理沙とのあれは別に……
恋愛とかそういうんじゃないしな。
「え……そうなの……!?」
今度は驚いた顔になる。
本当に感情が分かりやすいやつだ。
クレハはババ抜きとか弱そうだな?
「お
「わ、私は別にモテないよ! 恋愛に興味や憧れが無い訳じゃないけど……てか、まず、相手がいないから──それに今は騎士の職務とか鍛練とかあってそれどころじゃないし。後、お婆ちゃんの事もあるから……」
(お婆ちゃんの事? 怪我か病気でもあるのか?)
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「──クレハッ! やっと、見つけた!」
「エメレアちゃん! それとミリアも。お疲れ様。2人もそっちの仕事も終わったの?」
と、手を振りながらこちらに走って来た──エメレアとミリアにクレハは手を振り返しながら、二人を迎える。
「ある程度はね……少し抜けてきちゃった。まだ、直接フォルタニアさんに渡さなきゃいけない物とか
いつの間にか、クレハの両手をぎゅっと握っているエメレアが、本当に楽しそうな様子で話す。
「わ、私は終わったよ……! でも、今日は何かすごく色々あったから少し疲れたかな……魔力も使いすぎちゃったし。私は早く帰って寝たいかも……」
目を擦りながら話す、眠そうな様子のミリアは俺に気付くと、あたふたしながらもペコリとお辞儀をしてくる。
ちなみにエメレアは俺を完全スルー。
……やっぱ嫌われてるみたいだな。
「──それじゃ、俺はそろそろ行くぞ? せっかくだからこの街も少し見て周りたいんでな?」
「あ、ユキマサ君! ちょっと待って。それ私も一緒について行ってもいい?」
「ついて来るって街にか? 俺は別に構わないが、武器とか見ながら適当にぶらつくだけだぞ?」
後、何かエメレアが固まってるがスルーしよう。
「うん。それにこの街に来たの初めてなら案内役もいた方がいいでしょ? 私の方の仕事は終わったから」
(街というかこの世界が初めてなんだけどな?)
「く、クレハ!? 危険よ! こんな変な男!」
フリーズから我に返ったエメレアが、俺に指をさしクレハを制止する──まあ、今日あったばかりな訳だし、それぐらいの警戒心で間違ってないとは思う。
「えっと……エメレアちゃん? 私はユキマサ君は危険でも変な人じゃないと思うよ? それに……その……私の事も助けてくれたし……///」
顔を赤くしながらクレハはモジモジしながら話す。
……もしかして助けられたこと恥ずかしかったのか?
まあ、差し当たりは……騎士のプライド的な物だろうか? でも、あの状況じゃ流石に助けに入るぞ。
「──なッ……!?」
と、言いながらエメレアは再び固まる。
「み、ミリアはどう思う? 危険だと思うわよね?」
エメレアは
「私も……ユキマサさんは悪い人じゃないと思うよ? 〝
最後は俺と目が合いビクッとし『すいません』と謝りながら、ミリアはエメレアの後ろに隠れてしまう。
別に全然謝る程の事じゃないんだが……
「うぐぐぐぐぐ。クレハとミリアの2人がそう言うのなら200……いや……2000歩ぐらい譲って……ほんの少しぐらいは……信じても……う、それでもやっぱ無理かも……ていうか……絶ッ対……に……嫌……!」
頭を抱え、エメレアは自問自答し
「えーと、エメレアちゃん……?」
少し困った様子のクレハが話しかける。
すると作り笑い100%のエメレアが俺の方を向き──
「あら、ユキマサじゃない。ご機嫌よう?」
と、勿論もっと前に俺に気付いていた筈だが……
「……今更かよ? ああ、ご機嫌よう……エメレア?」
俺は一応エメレアに『ご機嫌よう』を返しておく。
「……で、ちょっとこっち来てくれるかしら?」
俺はエメレアに腕を捕まれ端の方に引っ張られる。
「──何だよ……?」
「私の大親友……いえ、家族同然のクレハに、もしも何か変な事したら死んでも殺すから……肝に銘じておきなさい?」
ニコりとした笑顔で凄く物騒な事をを言ってくる。
(笑顔だが、この目はマジだな……)
「変なことって……別にクレハが嫌がるような事をしたりはしない──それと腕に当たってるんだが?」
俺はあまり意識しないようにしていたが、先程腕を捕まれた時から、俺の腕にエメレアの柔らかい胸の感触がある。本人がまだそれに気づいてない様子なのでこのタイミングで俺はエメレアにそれを軽く伝える。
「なななななッ……/// や、やっぱり……こ……この……変態! エロ男! バカ! ヒュドラッ!」
かあぁぁ! と、一瞬で顔を真っ赤にしたエメレアは、ポカポカと両手で殴ってくる。
てか、最後のヒュドラって何だよ!?
……動揺しすぎだろ?
「それはお前が……いや、あー、悪かったよ……」
確かにもっと早く言ってやることもできたしな。
俺に非が無いかと言えば無くは無いよな……と、思い一応エメレアに謝っておく。嫌なもんは嫌だろうし。
「──ッ……!? と、とにかく。クレハに何かあったら許さないから! それに私はあなたを信じた訳じゃない。クレハとミリアの2人の人を見る目は確かだから、それを信じただけだから! 勘違いはしないことね、いいわねッ!!」
そう言い残しエメレアはクレハ達の元へ戻る。
「エメレアちゃん、な、何、話してたの……?」
「クレハ! 私は仕事に戻るけど……あの男に何か変な事されたりしたらすぐに私を呼ぶのよ──!」
がしッとクレハの手を取るエメレアは、
凄く真剣な目でクレハに注意を促す。
「え……うん、ありがとう?」
普段はこんな感じでは無いのだろうか? クレハはエメレアの態度にかなり困惑気味に返事をしている。
「あ……う……クレハ……エメレア……私はそろそろ帰って休むね……ごめんなさい」
どうやらミリアは限界そうな様子だ。
「そうね、時間を取らせてごめんさい。それにミリア、あなた
と、ミリアの頭を撫でるエメレアは、俺への表情とは真逆の凄まじく優しい表情になる。
(てか、分かってはいたが。こいつはこんな風に普通にしてれば、かなりの美人なんだよな……)
言えば、また睨まれるだろうから黙っておくか。
俺にそんな事を言われても嫌がるだろうし。
「あ、ミリア。これ1つまだ残ってるから飲んで!」
ミリアを呼び止めたクレハは
「あ、うん……! 2人共ありがとう!」
ミリアはクレハから受け取った
本当に姉妹みたいな奴等だな。
すると、ミリアは最後に俺に頭を下げて──
「あ、あの! 今日は助けてくれて本当にありがとうござい……まし……たッ!! あ、す、すいません!」
所々を噛みながらも、一生懸命にミリアはお礼を言ってくる。
「どういたしまして。後、ちゃんと聞いてるし、別に怒ったりもしないから、ゆっくり落ち着いて話せばいいと思うぞ?」
と、俺がミリアに言うと、
「ひゃ、ひゃい……!!」
と、返事をくれるが、また噛んでしまう。
「まあ、ゆっくり慣れていけばいい。よく休めよ?」
コクコクッ。ペコッ!!
「あ、ありがとうございます……! それでは……失礼しましゅ……す……!!」
と言い残し、ミリアはクレハとエメレアにパタパタと手を振って帰っていく。
「それじゃあ、私も仕事に戻るわ……とにかくクレハはあの〝黒い変態〟に気を付けるのよ! さっきもどさくさに紛れて、私の胸に触ってきたし!」
「おい待て、あれはお前がくっついてきたんだろ!」
てか、誰が〝黒い変態〟だ!
「ユキマサ君……エメレアちゃんに何してたの……?」
じー……とクレハが目を細めて俺を見てくる。
「別に俺からは何もしてないぞ……腕捕まれた時に偶然あたっただけだ。扱い的には事故だろ!?」
じーっと俺の顔を覗いて来るクレハは
「ふーん……何となく事情は分かったけど……」
ムスッとはしているが納得はしてくれたみたいだ。
「あ、フォルタニアさんも戻ってきたみたい。そろそろ本当に行かなきゃ! う……じゃあクレハまたね!」
がしっと最後までクレハの手を握りながら、エメレアは本当に寂しそうに去っていく──そして去り際にはチラッと俺の方をちゃんと睨んでいった。
(こいつ……徹底してやがるな……)
「ミリアはともかくエメレアは何だったんだ? ……というか、エメレアに俺は随分と嫌われてるようだな」
「えーと、あんな感じのエメレアちゃんは珍しいかな……? 本当に嫌いなら多分あんな感じじゃないって言うか何て言うか……もっと、
殺戮的……? ──何だそれ……怖いな。これのまだ
まあ、クレハの事が本当に好きなんだろうな。
家族同然と言ってたし、それにミリアの事も。
「──あ、あと、ミリアが初対面の人とあんなに喋ってるの初めてみたよ!」
「そうなのか?」
「ミリアはちょっと人見知りな所があるからね。でも、そういう所も可愛いんだけどね……!」
と、クレハは楽しそうに話す。
ちょっとかな? あれ……?
「あ、それで街の武器屋はどこ行くの? 場所とか決まってる?」
「いや、決めてないな。とりあえずは武器屋で剣を1本買いたいとぐらいしか考えてない。そもそも、その武器屋がどこにあるのかも俺は知らないしな──」
あとは宿と飯屋は探しておきたいが……
まあ、それは歩いてればそのうちあるだろう。
「武器屋なら、私がよく行く武器屋でもよければ案内するけれどそこでもいい?」
「勿論だ、助かる」
「全然気にしないで。分からないことがあればいつでも聞いてね? 私は生まれてからずっとこの街にいるから、この街のお店とかの場所は大体わかるよ」
世話好きなのか、お人好しなのか、クレハは今日あったばかりの俺に色々と教えてくれる。
まあ〝異世界初心者〟の俺には凄くありがたい。
「助かる。じゃあ、案内を頼んでいいか?」
「うんッ/// ……じゃあ、行こっか!」
そして俺とクレハは街の武器屋へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます