第5話 変異種



 ギルド直属〝第8騎士隊〟所属の、綺麗な黒髪でセミロングに整った顔立ち、レベルは36の16歳の少女──クレハ・アートハイムは、先ほど出会った旅人らしきフードの人物と別れた後、自身の騎士隊の隊長率いる〝第8騎士隊〟と合流するべく先を急いでいた。


「早くシスティア隊長達と合流しなきゃ! ミリア少し飛ぶけどいい?」


 クレハの隣を走る、ミリアと呼ばれた水色の長い髪に、銀色の髪飾りを付けた身長140cmぐらいの12歳の少女──ミリア・ハイルデートは、その手に宝石らしき青く輝くの石の埋め込まれた杖を持ち、クレハの言葉に頷きながら返事を返す。


「う、うん、大丈夫だよ」


 元々の極度の人見知りな性格の為、ミリアが心を許す数少ない友人のクレハへの返事すらも、たまに噛み気味である。


「じゃあ、行くよ!!」


 そう言うとクレハはミリアの手を握り、自身のユニークスキル〝空間移動〟を使い先を急ぐ。


 〝空間移動〟というだけで、かなり強力なユニークスキルなのだが……幾つかの発動条件もある。


 1つは〝移動できるのは目視の圏内であること〟

 2つは〝生物に対しては直接触れる必要がある〟

 という2点だ。だが、これらの条件を考えても、かなり優秀なスキルであるとクレハ本人も考えている。


 ──ヒュッン! パッ!!


 クレハは〝空間移動〟を使い、一度見晴らしの良い高い場所へと移動する。


 〝空間移動〟は目視圏内しか移動できない為、遠くまで見晴せるから移動した方が効率が良い。


 特に山等の木に遮られてしまい、あまり遠くまで見張らせないような場所だと、まずは出来る限り遠くまで見通せる高い場所に上がるようにしている。


「クレハ、大丈夫……?」


 ミリアは少し心配そうに問いかける。


「うん、まだまだ大丈夫だよ!」


 そんなミリアにクレハは笑って返事を返す。


 〝空間移動〟は魔力を使用し発動するので、無限に使えるわけではない。

 使えば魔力を浪費するし、魔力が尽きればもちろん使えなくなる。


「ちょ、ちょっと待ってね……!」


 と、手を繋いだままミリアは魔法を詠唱し始める。


「《我が詠唱にて・汝の魔力に・回復の加護を授けよ》──〝魔力回復マジックヒール〟」


 ミリアはクレハに魔力の回復魔法を唱える。


「クレハ……どう? 少しは回復できた……?」


 まだ自分の魔法に自信がないミリアは、ちゃんと魔法が成功したかを、恐る恐ると聞いてくる。


「うん、ありがとう。凄く元気になったよ!」


 これはお世辞ではなくクレハの本心だ。


 ミリアは、まだ自分の魔法に自信がないみたいだが……クレハから見れば〝回復魔法〟や〝防御魔法〟それに〝支援魔法〟に関しては『何を心配してるのだろう?』と思うぐらいには優秀だ。


 それにミリアはの扱い方や、味方に合わせるタイミングも凄く上手い。


 確かに〝攻撃魔法〟のは低めだが、でも、テンパってしまい、狙いが悪いだけで〝攻撃魔法〟としてはちゃんと機能してる。


 そんなテンパってしまう所を踏まえたとしても、まだ12歳としては、十分過ぎるぐらいに優秀であるとクレハは思う。


「ほ、本当……? よかった!!」


 ぱあぁ! と、まるで花がほころぶようにミリアはとても可愛いらしい笑顔になる。クレハは衝動的にぎゅっと抱き締めてしまいたくなる感情をぐッと押さえる。


 ミリアはこのような満面な笑顔は、本当に心を許した数少ない友人や仲間にしか見せない。


 他に私の周りの範囲だと、同じ隊の小さい頃からの親友である〝エルフの女の子〟のエメレアと〝第8隊の隊長〟であるシスティア隊長、それと私のお婆ちゃんぐらいだ。


 そんな中に自分も含まれてると思うと凄く嬉しい。


(──と……いけない、いけない! 早くシスティア隊長と合流しなきゃ!)


 クレハは気を引き締め直す。


 すると、その時……


 ──ドガドガドカーンッ!!!!


 大地に地震のような大きな音が鳴り響く!!


「な、何、この音!?」

「ク、クレハ! あっち!」


 と、ミリアが指を指す方を見ると……


 辺りの木や岩などを破壊しながら進んで来るヒュドラの姿と、その近くに応戦する〝第8騎士隊長〟──システィア・エリザパルシィ率いる〝第8騎士隊〟とギルドの依頼で集まった冒険者達の姿が、遠目からだが見える。


 ──だが、そこに見えるヒュドラの姿を見てクレハもミリアも言葉を失う……


「何……あれ……あれが……本当にヒュドラなの……?」


 クレハがそう思うのも無理はない。


 この世界において〝魔獣〟として扱われるヒュドラは首はで全身が鱗で覆われており、体長は約6mメートルぐらいの筈なのだが……


 今、クレハの目に映るヒュドラは全身が毒々しいの鱗で覆われていて、首はある。


 しかも、魔力も通常の物とは桁違いに高い様子だ。

 遠目からの目測だが、体長も通常の倍に近い10mメートル以上はあるのではないだろうか?


「もしかして……あれが……特別変異種指定魔獣ヴァルタリス?」


 ──通常の同種の魔物や魔獣よりも魔力がに強かったり、を使う個体。明らかに他とは強さが違う物を〝変種〟や〝変異種〟と言い、ギルドでは正式には〝特別変異種指定魔獣ヴァルタリス〟と呼ばれている。


 こ、こんなの……勝てるの……!?


 〝変異種ヴァルタリス〟はその存在自体が珍しい。

 ちなみにだが、通常の魔物と魔獣でも、魔獣のが遥かに強力である。


 魔獣で無くとも、普通の魔物扱いの双熊ツインベアーやミノタウロスの〝変異種ヴァルタリス〟の討伐でも〝騎士隊〟を2隊以上を編成して、手練れの冒険者を集めて戦うのが基本なのに……ましてや、の〝変異種ヴァルタリス〟なんて聞いた事が無い!


(て、撤退だ……これは一度撤退してギルドに戻り、体制を整え直して、と協力して戦うしか無い……恐らくシスティア隊長も同じ判断をする筈だ!)


「クレハ……?」


 ──ハッ……!


 ミリアに呼ばれクレハは我に返る。

 気づくと手にはじんわりと嫌な汗をいていた。


 急がなければ……


 こうしている間にも皆はあれと戦ってるんだ。


「ミリアは離れて支援をお願い! 私はシスティア隊長と合流してみる……多分、撤退命令になると思う!」

「うん……わ、分かった。ク……クレハも、無茶しちゃ嫌だよ……?」


 〝ダメ〟では無く〝嫌だよ〟と言う言い回しが、いかにもミリアらしい。

 ダメと言われるよりもよっぽど効果的だ。


 ミリアも怖いだろうに……


「大丈夫だよ! ミリアに魔力も回復してもらったし! いざとなれば〝空間移動〟も出来るから! ミリアが危なくなったら、直ぐ助けに行くからね!」


 少しでも不安が和らげばとクレハは明るく返す。


「うん、ありがとう……!」


 そう言って、ミリアは笑って返事をしてくれた。

 お陰で緊張がほぐれて、少し気持ちが楽になったような気がする。


 ──よしッ! と、クレハは気合いを入れ直し、

「ミリア、近くまで飛ぶよ!」

 と、クレハはミリアの手を握る。

「うんッ……!」

 ミリアから返事が返ってくるが、緊張した様子だ。


 ──ヒュッン! パッ!!


 クレハは戦場となっている場所から、50mメートルぐらいの手前の場所に〝空間移動〟する。


 すると戦いの悲鳴や怒号が聴こえてくる。


「どうなってやがんだ!」

「こんなヒュドラ聞いたこと無いぞ!!」

「負傷者を下がらせろ!!」

「イテェ……毒が……毒が……うわあぁぁ!!」


 通常のヒュドラとは攻撃や動き方が全く違く、事前の対ヒュドラ用の陣形や作戦が全く機能していない。


 事前情報との勝手が違う為、変にテンパってしまう者や、少くなく無い数の負傷者、そして毒を食らって痛みに耐えられず、その場でのた打ち回る者もいた。


 まずい……収拾が付かない……


「ミリアはここでまってて! できそうなら負傷者の治療を手伝ってあげて。私はシスティア隊長の所へ行ってくる!」

「う、うん……わ、分かった。気を付けてね……!」


「ありがとう、ミリアもね!」


 ──ミリアと別れたクレハは〝第8騎士隊〟の隊長である、システィアを探して戦場の中に入っていく。


(責任感も強くて、勇敢な人だから、恐らくヒュドラの近くで先陣を切って戦ってる筈だ!)


 クレハは近くの木に〝瞬間移動〟で移動し、ぐるりと辺りを見渡して、システィアを探す。


 すると、ヒュドラの近くに、愛用のレイピアを構えヒュドラと対峙する、金髪の腰まであるポニーテールの女性を見つける。


(──いた! やっぱりヒュドラの近くで戦ってた! でも、何か様子が……変……?)


 システィアは自信の愛用の武器であるレイピアには、いつものキレが無く、今にも倒れそうな様子で肩で息をしている……


「危ないッ!!」


 6つあるヒュドラの首の1つが、システィアに向かって〝魔法〟を放とうとしている。


(……あ、あの技は何だろう? ヒュドラの技ではみたことの無い、紫色の火の球みたいな魔法だ……)


 ──ヒュンッ! パッ!!


 すかさずクレハは〝空間移動〟でシスティアの元へ行く。


「──システィア隊長! 無事ですか!」


 今にも倒れそうなシスティアをクレハが支える。


「クレハ!? いけない! ヒュドラの紫色の火に当たるな! ──あれは毒だッ!!」

「毒!? ヒュドラが……やはり特別変異種指定魔獣ヴァルタリスですか……」


 悠長に話してる時間もない。直ぐにクレハは〝空間移動〟で、ヒュドラから距離を取る事をする。


「システィア隊長! 飛びますよ!」


 そう言いながら、クレハはシスティアの返事を待たずに〝空間移動〟で、ヒュドラから距離を取る。


 ──ヒュンッ! パッ!!


 クレハはヒュドラから少し離れた木陰こかげに移動する。


「すまない……クレハ……世話をかけた……ガフッ……」


 システィアは喋る事もやっとらしく、言葉の間にも苦悩の色が見え、最後はせこんでしまい、口からは血を吐いてしまっている。


「すぐに回復薬ポーション……いえ、上回復薬ハイポーションを!」


 クレハは素早く上回復薬ハイポーションをシスティアに飲ませる。


「ハァ……クレハ……ありがとう……大分楽になった……」


 さっきよりは少しは怪我の具合は良くなったが……

 まだ、システィアの顔色は悪く呼吸も乱れている。


(おかしい……上回復薬ハイポーションの効果が薄い──違う、これはさっき言っていた毒だ!)


「これはヒュドラの毒ですか!? 何でもっと早く〝解毒剤げどくざい〟を使わないんですか!」


 クレハは解毒剤も取り出し、システィアに飲まそうとするが、システィアにそっとその手を止められる。


「この毒は通常の解毒剤では解毒できないみたいなんだ……〝聖水〟なら可能みたいだが──既にこの戦いに持ってきた分は、最初の方で毒を食らった者達の分で使いきってしまった……まさかヒュドラが毒……しかも聖水じゃなくては解毒できない程とは……」


(──そんな!? じゃあ、今毒を食らってる人も解毒できないってことなの!?)


「それに……さっき言っていた通り、あのヒュドラは普通のヒュドラでは無い。特別変異種指定魔獣ヴァルタリスだ。──既に皆には撤退命令を出している。エメレアにも〝精神疎通テレパス〟でギルドに〝特別変異種指定魔獣ヴァルタリス〟の出現と第8隊と冒険者の撤退。それとと大量の聖水を頼んで貰っている」


 流石はシスティア隊長だ……

 この状況下でも冷静に判断を下している。ギルドからの援軍……そう聞くと少しは兆しが見えて来る。


 だが、状況はかなり悪い……

 援軍も早くともは数時間はかかるだろう。


「じゃあ、今は負傷者の回復や撤退支援をしつつ援軍が来るのを待つしか……」

「ああ……私も同じことを考えていた。だが、恐らくそれでは負傷者……特に私みたいにあの毒を喰らうものが多くでるだろう……」


「それじゃ……どうすれば……」


「私がヒュドラを食い止める。どれぐらい持つか分からないが、その間に隊と冒険者は全員で下がれ。どのみちこの毒では私は足手まといだ……!」

「嫌です! それではシスティア隊長が……!」


 嫌だと即答するクレハ。


 ──クレハは、システィアには騎士になる前から、ずっとお世話になっている。


 騎士隊入る以前から、祖母とシスティアの母が仲が良く。付き合いがあり、小さい頃からクレハや親友のエメレアやミリアにも凄く良くしてくれた。


 システィアに、戦い方も勉学も教わったクレハにとっては、血の繋がりは無くとも、本当の姉のような存在である。


「話している暇も、もう無いッ……!」


 バババババン!! ドンッ!!!!

 

 未だにヒュドラと対峙する、まだ動ける騎士隊の者や、冒険者の戦う音が辺りに鳴り響く。


「クレハ……すまない……」


 システィアは立ち上がり大声で指揮を執る。


「全隊及び冒険者は早急に撤退しろ!! 負傷者及び、毒状態の者を優先して運びながら撤退し、ギルドの援軍と合流せよ! どれぐらい持つか分からんがヒュドラは私が食い止める──!!」


 それを聞いた冒険者や第8隊に動揺が走る。


「オイオイ、隊長さんよ! それじゃアンタが!?」

「シ……システィア隊長……!?」

「確かにこのままじゃ全滅だが……クソッ! 何か他に策は無いのか!」


 ヒュドラと対峙する冒険者や第8ギルド隊員、それと負傷者の治療に当たる者達が、それぞれシスティアの指示に対する気持ちを声に出す。


「し、システィアさんッ!!」


 すると、金髪ロングの髪をルーズサイドテールにした、エルフの少女が凄く慌てた様子で現れる。


「任務中はと呼べと言っているだろう? エメレア……」

「そんな事は今はどうでもいいです! 気に食わなければ、後で除隊にでも解雇クビにでも何にでもすればいいじゃないッ!」


 興奮してるせいか、エメレアは話す言葉に敬語とタメ口が混ざっている。


「ギルドには〝精神疎通テレパス〟で救援を呼んであります! 毒も喰らってるんだからさっさと隊長も撤退してください! そうよね、クレハッ!」


 エメレアは、半ば泣き叫ぶような声でシスティアに懇願し、また親友のクレハに同意を求める。


「──、エメレアちゃんの言う通りです! 皆で協力し撤退するべきです!」


 システィアの言葉に唖然とし言葉を失っていたが、エメレアの呼び掛けで我に帰り、クレハは再び説得を試みる。


「ありがとう。だが、私は大丈夫だ! 私を心配をしてくれるのは嬉しいが──では、君たちはギルドからの援軍と合流してから万全の体制で来てくれ」


 そう言いうと、システィアは優しい表情でそっと2人の頭を撫でてから、戦場へと走っていく。


(そうやって……皆して大人ぶって……少しは残された人の気持ちも考えてよ……!)


 唇を噛み締め、血の繋りは無くとも、姉同然の人物への思いがクレハの胸を痛い程によぎる……


 だが、クレハのその気持ちが言葉にして発せられる事も、今のシスティアに届く事も無かった。


 ドドドドーン!!!!


GUGAGRRRAAグガアァァァ!!」


 ヒュドラの雄叫びが辺りに響く。


「ぐわあぁぁぁ!! イテェ!!」

「誰か〝聖水〟を持ってる奴はいないか!?」

「な、何なんだよコイツは!!」

「クソッ! も魔法も対して効きやしねぇ……!」


 誰かが戦う声が聞こえる……


 でも、クレハもエメレアも体が動かなかった。


 ──その時、ヒュドラの首の1つがこちらを目掛け火属性の魔法ブレスを放ってくる。


(しまった!? 反応が遅れた! 間に合わない!)


 システィアの行動に唖然あぜんとしてしまっていたクレハとエメレアは、2人とも反応が少し遅れてしまう。


 それでも一か八か、クレハは〝空間移動〟をしようと必死にエメレアに伸ばす──


「──《赤き輝く第一の盾よ・我らに守りの加護を授けよ》──〝赤色の防壁ルーボルデフェンシオ〟!!」


 ミリアは〝防御魔法〟をに当て、ヒュドラの攻撃を受け止めるのでは無く、上手く空に逸らす!


「エメレアちゃんッ──!」


 ──ヒュンッ!! パッ!!


 その隙にクレハはエメレアの手を掴み〝空間移動〟のスキルを使い、ヒュドラの攻撃範囲外に移動する。


「クレハ、エメレアッ! だ……大丈夫!?」


 慌てた様子のミリアが走って来る。


「ミリア、あ、ありがとう……!」

「ありがとう。助かったわ……それに良かった。ミリア……無事だったのね……!」


「う……うん、でも……システィアお……ね……隊長が……ふぇぇぇん……!」


 事情を察したミリアが、エメレアに抱きつき、そのまま声をあげて泣いしまう……


 その姿を見てクレハはズキッと心が痛む。


(もっと……もっと……強くならなきゃ……)


 こんな状態で人類は本当に魔王に勝てるのだろうか……


 大きな敵を前に気持ちが小さくなってしまっているせいか……クレハはそんな事までも考えてしまう。


「クソッ、もう持たねぇ!!」

「全員離れろッ!!」


 ヒュドラに対して〝弱体系の魔法デバフ〟をかけ、動きを妨害していた者達が悔しげに叫ぶ。


「──全隊待避! 〝防御結界の魔法魔法障壁〟を張れる者はヒュドラと私を取り囲むようにし撤退しろ!!」


 そうシスティアは指示を出しヒュドラに向かう!


「た、隊長……!」

「おい、どうすんだよこれ!?」

「隊長命令だ、やるしか無いだろ……!!」

「このままじゃ全滅だ!」

「クソッ!!」

「システィア隊長……!?」


 〝防御結界の魔法魔法障壁〟を使える者たちは困惑しながらもシスティアの指示通りに〝魔法〟を撃ち始める。


 システィアを信じ、自分達の無力に嘆きながら、

 言われた通りにヒュドラとシスティアを〝防御結界の魔法魔法障壁〟で、サークル状に包むように隔離すると指示通りに撤退を始める。


「急げ! 援軍を呼ぶんだ!」

「そうだ! システィア隊長が時間を稼いでくれてる間に! ギルドマスターなら、必ず援軍を寄越してくれる、それに他の隊の隊長達が来てくれればきっと倒せる!!」


 システィアは愛用のレイピアに魔力を込める。


「《我が名に賭け・彼の者かのものを討ち滅ぼせ・響け》──〝偉大なる覇風ウェントス・グランデ〟!」


 詠唱を唱え、風属性の魔法を使ったシスティアは、自信のレイピアに魔法を合わせ──

 隕石の如く、ヒュドラの胴体に攻撃をしかける!


 ガガガガガガン!! ドンッ!!


 システィアの攻撃がヒュドラの胴体に命中する。


GUGAAグガアァ!!」


 ヒュドラが少し後方に押され苦悶の叫びをあげる。


「……くッ!! 何て堅さだ!?」


 ダメージは有るが、それでも致命傷には及ばない。


「くッ、グフ、グハッ……!」


 毒がキツくなって来る。システィアはたまらず込み上げてくる血を思わず吐き出す。


 血を吐き出すと、すかさずシスティアは、上回復薬ハイポーション魔力回復薬マジックポーションを胃に掻きこむ。


「これでもダメか……」


 ダメージはあっただろうが、ヒュドラは直ぐ様体制を立て直し、こちらを睨み雄叫びを上げて来る。


 すると、システィアは〝防御結界の魔法魔力障壁〟でサークル状に自身とヒュドラの周りを囲み、隔離されるのを確認する。


 ──ありがとう。


 システィアは心の中でそっと呟く。


(うっ……)


 毒の痛みで意識が飛びそうになるが気力で耐える。


「まだだ……まだ私は倒れないぞ……?」


 その言葉はヒュドラに向けて言った言葉なのか、それとも自分自身に向け言った言葉のかは、システィア自身にも分からない。


「はあぁぁぁぁ!!」


 システィアは休まずヒュドラに攻撃を続ける。


 だが、それを嘲笑あざわらうかのように、ヒュドラの尋常で無い堅い鱗がシスティアの攻撃を弾く。


 それでも、システィアは攻撃の手を一切止めずにヒュドラへと立ち向かう!!


 そして、システィアはレイピアに魔力を込め詠唱を始める──


「《我は火を纏い・彼の者をくびきへと導く・殲滅せよ》──〝業火の嵐アグ・テンペスト〟!」


 ──ズドンッ!!!!


 首を狙い炎を纏ったレイピアでつらぬきにかかる!


GUGYAAグキャァ!!」


 ヒュドラに命中するがやはり致命傷には届かない。


「クソッ……これでもダメか!!」


 いや、それでも少しずつだがダメージはある……


「──ゴフッ……!」


 さらに毒が回ってくる。飛びそうな意識を気合いで引き戻すが……それでも込み上げて来る血をシスティアは、たまらずに盛大に吐き出す。


(まずい……一度……距離を……)


「──!?」


 システィアの表情が少し変わる……


 いつの間にか接近していた、ヒュドラがシスティア目掛けて6つの内4つの首から、魔法攻撃をしかけようとして来る。


 火、氷、毒、火と魔法の種類は様々だ……


(これは避けられないな……)


 ガフッ……! システィアは更に血を吐き出す。


「すまない……ここまでか……」


 もう……身体が言う事を聞いてくれない……


(怖いな……悔いも……ある……ミリア……エメレア……そしてクレハ……ありがとう……本当にすまない……)



 システィアは死を覚悟して目を閉じる……



 ──ヒュンッ! パッ!!


「──嫌だと言った筈です! いい加減にしないとお婆ちゃんに言い付けますよ!!」


 ──ドドドドカーンッ!!


 辺りに爆発音が響く!


 だが、間一髪の所をクレハの助けで攻撃を避ける。


「く、クレハ……バカ者ッ! なぜ戻ってきた……!」

「もう時間稼ぎは十分です! 早くシスティア隊長も撤退してくださいッ! ──道には魔物もいましたが、皆さんが倒して退路を確保してくれました!」


「い……良いから早く逃げろッ! それに私は退路を確保しろじゃなく、撤退しろと言ったはずだ……!」


(──何で、よりによって君がこんな危険な場所に戻ってくるんだ!)


「だから嫌だと言ったじゃないですか! 何で分かってくれないんですかッ!!」


 クレハにしては珍しく、16歳の年相応な少し子供っぽい怒り方で言い返してくる。


「──なッ……!?」


 これにはシスティアも少し面を喰らう……


「危ないッ!!」


 魔力を帯びて突進してきたヒュドラから、システィアは有りったけの魔力を全身にまとい、クレハを庇う!


「ぐ……!!」


 ズダダダダーン!!

 

 その威力に吹き飛ばされ、二人は地面に強く叩きつけられる。


「うッ……!」


 その痛みでクレハもでうなるが……すぐに血だらけで倒れているのシスティアを見て側にかけよる──


「隊ちょ……シ、システィアお姉ちゃんッ!!!!」


 ──ドシ! ドシ! ズンッ!!


 重量感のある足音と共に、ゆっくりとヒュドラが近くまで来るのが分かる……。


 もう自分も魔力があまり残ってない……

 後、1度くらいなら飛べるだろうが、動揺しすぎて〝空間移動〟の場所が上手く定まらない……


 ドスン……!!


 重量感のある足音が目の前で止まる。


 血だらけのシスティアをギュッと抱きしめながら、クレハは死を覚悟する──


 ──お願い……誰か……助けて……!!


 お婆ちゃん……エメレアちゃん……ミリア……



 ごめんね……



 ──バリバリッ!! ガッシャーーン!!!!


 その瞬間、そんな音と共にサークル状に辺りを包んでいた〝魔法障壁〟の


 その後に──ヒュン!! と、何かが高速で移動したような音がする。


 次の瞬間、ヒュドラの首が1つ〝ザクリッ!!〟と音を立て斬れ──ドスン!! と、重量感のある音と共に6つあった首の1つが地面へと落ちる。


「──GUGYAAAAグギャアァァAAAAAAァァァァァァAAAAAAァァァァァァ!!」


 痛みに耐えかねたヒュドラが、大気を揺らし、身体の芯にまで響くような、今までに無い大きな叫び声を上げる。


「……え……えっ……? い、一体……な、何が……?」


 まだ、クレハは何が起こったのかを頭でよく理解ができていない。


 目では見てはいたものの、が現実だと理解するのには時間がかかり……

 まだ、その状況を唖然としながら見ている。


 すると……ヒュッと、落ちたヒュドラの首の前に一人の人影が降りてきてくる。


「──よぅ、生きてるか? 怪我は……ありそうだな?」


 その人物はこの状況下でも落ち着ついており、それに何処かまだ余裕があるような様子で話しかけてくる。


(──あッ……!)


 そこでクレハはこの人物を思い出す。


 今は頭のフードは外しているが……

 この人物には見覚えがある。


 確か、ここに来る少し前に見かけた……


 それにお腹が空いてる様子だったので、昼のお弁当の残りのおにぎりをあげた……旅人のような格好をした湧水の所で会った、あの時の黒髪の少年だった──。

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