第20話 神様が見た景色

 翌朝、2015年3月7日。目を覚ますと品川署に保護されていた。父と姉が迎えに来て、そのまま姉の運転する乗用車に乗せられて品川署を出発した。群馬県伊勢崎市の原病院へ向かう。伊東乾先生を先頭に村田美夏ちゃん、堀江貴文さん、津田大介さんも付いて来る。東京を抜けて高速に入る。群がってた右翼たちが振り切られ、汚れてた東京がキレイに整えられていく。

「フフッ、やっぱりね」佐藤茜ちゃんがつぶやく。

「現役で立教。一浪して全滅。そんな強気なヒトがそのあと何も考えてないわけない」

「トシを重ねてから学校に行くってアリなのかな?」

「その人次第だろ」

「東京大学は?」

「やはり特別なのかもしれない」

「結局、この人何だったんだろう?」

「つまりさ、東大落ちて、精神病になって、廃人になって、復活して日大行って、色んな仕事して、色んな人に出会って、色んな世界を重ねて。そうするとさ、ヒトとは違う世界が見えたんだよ。いくつもの世界を重ねたときにさ」

 津田さんが高速道路の天井部分にいくつもの穴が開いてるのに気が付いた。高速で走る車窓からは、それはまるで、いくつもの世界を重ねたように見えた。

「神様が見た景色ってこんなだったのかなあ」タブレットで撮影して皆に配信する。

「金髪、ピュリッツアー賞」

 堀江さんも美夏ちゃんもタブレットで、配信された動画を何重にも重ねて見ている。

盛り上がりは最高潮に。

「隣のレーンで安倍首相が演説してるよ。でも、こっちのレーンの方が人が多い」

 うしろから右翼のトラックが迫ってくる。電磁波攻撃。背中が痛い。急に雰囲気が変わる。豪志の手元にはスマホもパソコンもない。父親にノートとペンを借りる。

「津田さん、助けてください。紙とペンを!」ノートに書いて車の窓ガラスに張り出すが、

「STOLEN」

「女とやりたいだけなんだ」と書き換えられている。皆が豪志の言葉を欲しがってるが伝える手段がない。

 大衆の前でスピーチする哲学者の画像が目の前に現れる。晩年のサルトルか。

「何だコレは」と思うがいまは現実と認めるしかない。

 原病院に到着した。淳子先生の待つ診察室に通される。ドMの顔の淳ちゃん。豪志は逃げ出した。病院の外に出て、

「どうすればいいんですか、伊東先生」

「簡単だ。病院の敷地内に入らなければいい」

 病院の敷地外をウロウロする豪志。男性看護師が5,6人来て豪志をかかえ上げ、1病棟の隔離室まで運んで行った。小野先生が来て鎮静剤の注射を打つ。特に暴れることもせずに豪志は眠りに落ちていった。

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