第19話 伊東乾の画像入り小説
もうどこにも行くところがない。豪志が駅前でウロウロしていると、伊東先生がテレパシーで画像入り小説を送ってきた。
「はじめまして、伊東乾です。東京大学で教員をしております。今回、テロ事件を通して豪志と知り合いまして、「碩学」の研究を進めることができました。「碩学」というのは私の造語なのですが、あらゆる学問を修めたのち、その間にある学問まで見えてくるとする考え方です。例えば、ミクロ経済学と心理学の間で行動経済学、進化論と心理学の間で進化心理学。また、私のライフワークである音楽と物理学の融合も「音学」となります。
「碩学」の研究のためには豪志の一生を研究しなければなりません。当然ながらヒトの寿命には限りがあります。豪志の一生を見届けるためには研究者は分担してそれ以上の命を生きる必要があります。
法政大学教授の左巻健男とは豪志を取り合いました。私は最初、彼を軽く見ていたのですが、実証実験の段階になって彼のフィールドワークが活きます。研究の無理がたたり、病床に臥せっていた私を左巻は訪ねてきて、実証動画を見せます。
「伊東君、見えるか?これが碩学の決定的瞬間だ」
「ファ、ファイン!」
豪志も病床の私をテレパシーで励まします。
「伊東っち、がんばー!」
私は豪志に何度も殺されかけましたし、何度も殺そうと思いました。碩学の研究は一生の付き合いですから、当然、命を賭けた研究になります」
「豪志は生涯で48社の法人を作ります。テレパシーを改良したSNS、「ファインブック」もそのひとつです。テレパシーですからハンズフリーでいつでも脳と脳を繋ぐことができます。また、「いいね!」の代わりに「ファイン!」を使います」
「東大を中退した豪志はフランスに渡ります。バンド活動をしながら地元ラジオに出演し、胆力ある若者を育て、政界に送り出します。そして、ドイツ、フランスの哲学者の下を訪ね歩き、哲学的答えを聴いて回ります」
「豪志は女性用オナニーマシーンを発明するんですが、これがアメリカで悪用されます。女性の意思では止められない。オバマ大統領は戒厳令を出します。このとき救済に奔走した豪志を助けたのが佐藤茜と鈴木柚里絵です」
「名うての不良。豪志の母方の親せきの長子、たかひろは祖父が残した松井財閥を守ることしか能がなかったのに、豪志の発明した新種の小豆を使った和菓子で大儲けしたときも、一度もファイン!しませんでしたからね。本当にイヤなヤツでしたよ」
「堀江貴文。コイツは絶対、カネ儲けに豪志を利用しようとしていましたよ。相場操縦。不正取引。豪志が大きな仕事をするたびにカネ儲けに利用しました。ただ「碩学」には堀江も関心を示しました。堀江もやはり東大出身。碩学の重要性は認識していたのです」
「町医者(笑)。幼少期の豪志は身体が弱かったのですが、アトピーにはステロイド剤、喘息にはアルカロイド系、そして極めつけは、11歳のときに負った右肩骨折の大けがですが、この際、全身麻酔を受け手術、そして成長期の豪志を20日間、ベッドに強制的に固定しました。その医療ミスで豪志は背骨が曲がったまま固まってしまったのです。その後の成長にも大きな影響が出ました。まともな治療を受けていれば今頃、豪志の身長は180cmはあったはずです。私がいなかったのが悔やまれます」
「海城高校というのも辛気臭いイヤなところでしたよ。ワルガキ、ワル教師に囲まれ、ここで豪志は不良のレッテルを貼られ、疲弊していきます」
「そりゃ、豪志はモテましたよ。彼の人生。生き様を考えれば当然かもしれない。アイドル、女優、モデル、女子アナ、AV女優、外国人タレント、東大女子。豪志が生涯で抱いた女は382人」
「村田美夏に続いて原淳子を第二の妻とします。そして、村田美夏も医師の資格を取り、2人とも「碩学」の研究に協力していきます」
「弱視。眼が弱いのが豪志の最大の欠点です。裸眼で0.01不可。眼鏡をかけて、両目で0.4しかない。両親も眼が弱く、母親は60代で白内障で失明しています」
豪志は大崎の駅前で始発を待っている間に、疲れ果てて路上で眠り込んでしまった。
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